2022年07月29日 1733号

【避難指示解除 帰還困難区域も/狙いは大企業利権の「復興拠点」】

 福島県内では、原発事故以降、居住制限区域の避難指示解除が断続的に行われてきたが、国・福島県による帰還政策は帰還困難区域にまで及び始めた。

棄民の総仕上げ

 6月12日には福島県葛尾(かつらお)村野行(のゆき)地区、30日には大熊町のうち「特定復興再生拠点区域」(復興拠点)に指定された区域で相次いで避難指示が解除。居住が可能となった。だが、除染の効果さえ限定的な中での避難指示解除は、棄民政策の「総仕上げ」に他ならない。

 帰還困難区域は、年間被曝線量が50_シーベルトを超える地域が指定された。一般住民の年間被曝線量基準の50倍、原発事故後の緊急時の住民防護措置として一時的に認められたICRP(国際放射線防護委員会)勧告の基準の2・5倍に当たる。半永久的に帰還困難と見込まれる地域として指定された経緯を考えると、解除自体、あってはならないことだ。

 解除方針は、復興拠点の設定を可能とする福島復興再生特別措置法の改悪(2017年)に始まる。「『復興・創生期間』における東日本大震災からの復興の基本方針」が閣議決定され、復興拠点整備が決定。大熊町の避難指示解除はその第1号となる。

 基本方針は、表向き「帰還する住民への支援」を掲げるが、真の狙いは「福島・国際研究産業都市(イノベーション・コースト)構想」の推進だ。東日本大震災・原発事故で破壊された浜通り地域で被災住宅の解体・整地等を実施。廃炉、ロボット、エネルギー、農林水産を4大分野と位置づけ、「産業集積拠点」整備の名目でグローバル資本の儲けの場を提供する。


健康被害の拡大

 原発事故後の県民生活の安全を保障するための廃炉さえ資本の利益の対象に差し出す計画が着々と進められている。除染が進んだとはいえ、事故直後に50_シーベルトを超える汚染に見舞われた地域での農林水産業展開は健康被害を全国、全世界へ拡大する最悪の政策だ。

 国・県が打ち出した前述の構想は、第二次世界大戦中に米国で進められた原子爆弾製造計画でプルトニウム生産工場が造られ、広範囲・高濃度の放射能汚染に見舞われたワシントン州南部ハンフォードの開発をモデルとする。原爆研究に伴う汚染からでさえ「立派に復興」した同市に倣えば福島も「復興」できるとする。その拠点が避難区域のままでは不都合なため避難指示解除に踏み切ったのだ。

 帰還住民には心のケア、スクールカウンセラーの配置など安上がりで無内容な「支援」しかない。被害はすべて住民に押しつけ、企業が儲けるショック・ドクトリンを許してはならない。 
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