2022年07月29日 1733号

【東電株主代表訴訟で画期的勝利 経営陣の責任認め13兆円弁償命令 6・17最高裁判決乗り越える展望示す】

 東京電力の経営を監視する市民株主らが、原発事故を引き起こした経営者の責任を問うため、発生した損害額を同社に弁償するよう求めた株主代表訴訟で、7月13日、東京地裁は事故当時の経営陣(勝俣恒久元会長、清水正孝元社長、武黒一郎元副社長、武藤栄元副社長)に13兆3210億円の弁償を命じた。

 株主が求めた賠償額は22兆円で、被害者への賠償の他、福島第一原発の廃炉や除染など事故の後始末のため、原子力損害賠償・廃炉等支援機構から東電に貸し付けられた額に当たる。判決では、このうち未払い分を除く支出済額を弁償すべき金額と認めた。日本民事裁判史上最高額となる。

 今回の判決の大きな意義は、原発関連訴訟として初めて経営陣の責任を認めたことだ。過去、被害者が起こした民事訴訟ではすべて東電に賠償が命じられたが、会社としての東電の賠償を認めるのみ。経営陣の責任には触れなかった。

 朝倉佳秀裁判長は、原発でひとたび事故が起きれば「我が国そのものの崩壊にもつながりかねない」と指摘。国の地震本部が2002年に取りまとめた三陸沖地震に関する長期評価は、多くの研究者の議論を得て権威づけられ信頼性があり、経営陣はこれに基づく津波対策を「講ずることを義務づけられる」と言い切った。対策を先送りする武藤副社長の判断を「当面は何らの対策も講じないという結論ありきのもの」とし、経営陣と東電を「原子力事業者として有していなければならない、基本的ともいうべき、過酷事故に対する想像力の欠如」と断じた。

 朝倉裁判長は昨年10月、原発関係裁判官として初めて福島第一原発構内を現地検証し、重要施設の防水工事が2年程度で可能なことを把握。その結果も踏まえ、東電経営陣4人に「善良な管理者の注意義務」(注)違反があったとして弁償額の仮執行(判決確定前の取り立て)をも認めた。閉廷が告げられると、原告席・傍聴席から「ありがとうございました」という声が響き大きな拍手が長く続いた。

 原告の1人で、福島県田村市から金沢市に避難した浅田正文さんは「事故以来10年の苦労が報われた」と判決を評価した。経営者個人に巨額の弁償義務を求めることで安全対策を強く促す画期的判決であり、国の責任を否定した6月の最高裁不当判決を乗り越える展望も示すものである。

(注)その地位・職責にある人が当然備えているべき水準の注意義務

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