2022年08月05日 1734号

【世界の物価高騰をどう見るか/解決の道は労働運動による賃上げ】

 食糧、原油などの価格高騰が続いている。スリランカでは深刻なダメージを受ける市民の怒りが大統領を辞任(7/15)に追い込んだ。

 スリランカの6月のインフレ率は54・6%。5月以降、食料品価格は80%、交通機関は128%上昇。対外債務の支払も一部停止、「国家破産」となった。

 マスコミは破綻の原因を中国の過剰融資としているが、対外債務のうち中国の割合は約10%(33・8億j約4500億円)で日本の融資額と同程度だ。50%近くは資本市場から高利で調達している(7/14中国問題グローバル研究所遠藤誉)。

 IMF(国際通貨基金)と援助協議が続いているが、民営化、増税などの「再建案」が押し付けられる。結局、中国の「融資の罠」というより、グローバル資本の「罠」にはまったのだ。

 ウクライナ戦争後、中露を悪者にし、軍拡を正当化する論調が強まっているが、経済においても中露敵視の構造を印象付ける報道が常態化している。

 インフレの原因をめぐってG20財務大臣・中央銀行総裁会議(7/15、16)は「ロシアのウクライナ侵攻による市場や物流の混乱が原因」と主張するG7親米諸国と「経済制裁が原因」と応じるロシアとが互いに非難し合って、共同声明は見送られた。

 小麦や原油の価格は株と同じように取引市場で売買され、投機対象だ。戦争による影響を「先読み」(減産に違いない)し、利潤を得ようと売買される。物価高もまた資本家間の利潤争奪の結果でもあるのだ。

欧米労組の闘い

 一方、労働者の賃金(労働力の価格)は資本家と労働者の力関係で決まる。世界の賃金水準を見てみよう。

 米国では7月1日、コネチカット州など3州、首都ワシントンDC、カリフォルニア州のサンフランシスコ市・郡などが最低賃金を引き上げ、カリフォルニア州エメリービル市では時給17・68ドル(約2400円)になった。

 フランスの法定最低賃金は5月1日に時給10・85ユーロ(約1500円)に引き上げられ、イギリスも4月、9・50ポンド(約1500円)となっている。

 日本の最賃は東京でも1041円。欧米に比べインフレ率は低い日本だが、賃金が下がっているのも日本だけ。物価高による生活への圧迫は変わらない。

 賃上げは労働組合の闘いを抜きには実現しない。

 米国では、21年12月にスターバックスで労働組合が結成され、その後アマゾン(22年4月)アップル(22年6月)と大企業での労組結成も続いているが、経営者と団体交渉を行うには、全国労働関係委員会(NLRB)が申請に基づき行う交渉単位(事業所や店舗など)の投票で、過半数の支持がないと交渉権が得られない。ストライキをすれば経営者は代替の労働者を雇い入れ、スト参加労働者の職を奪うことも合法とされている(「世界」8月号中窪裕也)。

 労働組合による団体交渉、争議行動には極めて高いハードルがある米国だが、昨年10月から今年の3月までの22会計年度前半だけで1174件の交渉権投票の申請があった。コロナ禍前の18、19会計年度1年間の申請件数に近い(NLRBウェブサイト)。

 欧州でも、格安航空会社でコロナ禍を理由に切り下げた賃金の引き上げを求め、ストライキの通告、決行が相次いでいる(独立行政法人労働政策研究・研修機構ウェブサイト)。

 とはいえ、労働者の力は資本家から「富」を奪い返すにはまだ足りない。

資本主義ではダメ

 資本家は労働者の搾取をいかに強化するかを常に考えている。それが利潤の源泉であるからだ。

 世界トップの資本家や政治家などが年に一度集まる「世界経済フォーラム」(通称ダボス会議)で、彼らの願望が語られる。コロナ禍で約2年半ぶりに一堂に会した今年、テーマは「歴史の転換点」。コロナ禍前から掲げている「グレート・リセット」にむけた転換点と位置付けている。

 格差や気候変動などに対応するために、資本主義体制を再構築するという。どんな手を使うのか。一言でいえば情報管理による統治支配の強化。ウクライナ戦争もパンデミックも、「グレート・リセット」促進の触媒にすぎない。岸田文雄首相が唱える「新しい資本主義」もこの発想を借りたものだ。

 だが、資本主義が生み出した格差や環境破壊、戦争などは資本主義体制の下では解決できない。資本主義そのもののリセット、人権と生活を最優先する民主主義的社会主義に移行することが問題解決の唯一の道だ。

 資本主義下でますます貧困、格差、分断支配が強まっていくのか、労働者の権利や市民生活を優先する公正で平等な社会をつくるのか、その意味で「歴史の転換点」にあると言える。人の命をかえりみない腐敗した資本主義を終わらせよう。

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