2022年08月12・19日 1735号

【22年版防衛白書を読む/ウクライナ戦争、「台湾有事」で危機演出/軍事費倍増(対GDP比2%)へ口実つくる】

 防衛省の年次報告にあたる防衛白書2022年版が7月22日、公表された。今年の白書は、年末の軍事3文書(国家安全保障戦略、防衛計画の大綱、中期防衛力整備計画)の書き換えを前に、次年度概算要求(8月)で「GDP2%枠」へ踏み出すために編集されたものだ。ウクライナ戦争、「台湾有事」を最大限利用しようという好戦勢力の好き勝手にさせてはならない。

既に1・24%水準

 白書は、日本の軍事費が他国に比べいかに少ないかを印象付ける細工を施した。

 まず、21年度軍事費を対GDP比0・95%としたことだ。その上で、「G7諸国、オーストラリア及び韓国と比較し、国防費の対GDP比は最も低い」となげく。だが、防衛省の計算には補正予算7700億円が入っていない。総額6兆円超は1・09%になっている。

 さらに、他国が軍事費に算入する沿岸警備費などを加えていない点もある。NATO(北大西洋条約機構)方式で計算すれば1・24%。ドイツ(1・31%)と遜色はない。

 岸信夫防衛相は記者会見で「防衛当局以外の省庁の予算をどこまで含めるか、確定させるのは困難」ととぼけたが、防衛省幹部は「外国よりまだまだ低いということを伝えたかった」とその意図を漏らしている (2/27北海道新聞)。

 小細工はまだある。「他国より少ない」ことを示そうと今回初めて、「国民1人当たりの国防費」を載せた。「オーストラリア・韓国・英国・フランス・ドイツいずれもわが国の約2から3倍となっている」。ところがだ、日本の2分1でしかない国がある。中国だ。白書はこれには触れない。



 結局白書は、「NATO加盟国は、24年までに対GDP比2%以上で合意」「米国、英国を含む8か国が2%を上回っている」と、「対GDP比2%」が国際基準だと主張しているのだ。

 政府は「骨太の方針」(6/7閣議決定)で「防衛力を5年以内に抜本的に強化する」と決めている。5年後2倍とするには、毎年20%の増額を見込むことになる。次年度の予算規模はほぼ決まりということだ。概算要求方針では、防衛省には金額を示さない「項目要求」を認めるとした。財務省のチェックが入らない別枠扱いなのだ。

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停戦・和平に敵対

 白書の役割は、軍拡の口実を揃えることである。岸防衛相の巻頭言に「戦後最大の試練の時」「21世紀における新たな危機の時代に入った」と大仰な言葉が並ぶのはそのためだ。

 21年版で岸は「中国の脅威」を強調させた。22年版では「ロシアによるウクライナ侵略」について1章を当てている。13ページにわたる長編だが、言いたいことは「ロシアの侵略を容認すれば、アジアを含む他の地域においても一方的な現状変更が認められるとの誤った含意を与えかねず、わが国を含む国際社会として、決して許すべきではない」。つまりウクライナは「台湾有事」を招き、「日本有事」になるという理屈だ。ウクライナ政府は、停戦、和平に応じてはならない―これが軍拡に必要な舞台装置なのだ。

 では「台湾有事」で何を想定しているのか。白書は中国の侵攻について、台湾政府の分析を引用しただけで、日米がどう闘うのか具体的な記述は避けた。琉球弧(南西諸島)の自衛隊ミサイル群をおとりにした米海兵隊の高機動ロケット砲システムによる日米共同作戦が昨年末暴露されている。これには全く触れていない。

 逆に、「反撃能力」につての「解説」記事には唖然とさせられる。「急速に変化・深化するミサイル技術への対応」と題する記事は、中露が先行する極超音速滑空兵器や変則軌道ミサイルなどの登場で、これまで整備してきたミサイル防衛体制は役に立たなくなったと書いている。だから「先制攻撃」も必要としたいところを「あらゆる選択肢を検討」とごまかすための記事なのだが、読み飛ばすわけにはいかない。これは沖縄・琉球弧で地域住民をないがしろにし、急ピッチで進めるミサイル基地群は既に役立たずだと言っているのだ。ならば直ちに中止・撤去すべきだ。

軍事産業の育成

 今年の白書に付け加わった「経済安保」。1節を設け、国内軍事産業の育成に意欲を示している。

 「米中の覇権争い」の解説記事で、両国が先端技術の輸出管理を強めているとの認識を示し、日本としては「防衛生産・技術基盤の維持・強化への重点的な取組が必要」だから、「新たな国家安全保障戦略や防衛大綱等の策定に係る議論」とともに「法整備も含めたあらゆる手段について検討を進めている」と本文に記した。

 政府が年末までに大改訂する軍事3文書には、新たな軍事産業政策が提示されると予告しているのだ。

 別の章ではあるが「防衛生産・技術基盤は、わが国の防衛力そのものであり、基盤強化が急務」とする解説記事を載せている。対前年比34・1%増となる3000億円の研究開発費を、「大幅な増額を実現」と誇示している。戦争継続能力は兵器や軍事物資の国内生産能力にかかっているのは間違いない。戦争国家体制作りは軍事産業の育成を掲げる段階に踏み込んだ。

 日本は既に軍事大国だ。この上NATO並みに「2%」となれば、米中に次ぐGDP世界3位の日本は軍事費でも世界第3位となる。「戦力不保持」を宣言した日本が、世界中に軍事基地を持つ米国(対GDP比3・12%)や「軍事的脅威」とする中国(同1・20%)に次ぐ軍事大国の姿を一層見せつけることになるのだ。

   *  *  *

 軍備強化を正当化するキーワードになっている「国際秩序を守れ」「力による現状変更を許すな」。いかに都合よく使われているか、指摘しておかなければならない。

 ロシアの軍事侵攻はまぎれもなく「国連憲章違反」であるが、一方ウクライナ政府が「ミンスク合意」という国際秩序を守らず、東部2州を空爆した「力による現状変更の試み」については、不問にしている。

 また「中国は1つ」は日米両政府も認める「国際秩序」だ。「力による現状変更」は中国の侵攻に限らない。台湾が独立戦争を仕掛ける場合も同じだ。

 中国はこの白書に対し、「強烈な不満と断固とした反対」を表明(7/22時事)。「『中国の脅威』を誇張し、中国の内政(台湾問題)に干渉した」と猛反発した。岸は「客観的な記述・分析を掲載」と表明(7/26産経)。「平和主義、専守防衛から離れている」との批判に「軍事大国にはならない」と応じた。口先だけであることは明白だ。こうした一方的な主張や挑発行為の繰り返しが、相互不信を招き、戦争の危険を高めていくのである。

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