2022年08月12・19日 1735号

【原発賠償4訴訟 最高裁判決 「結論ありき」で国を免罪 <三浦反対意見> 国の権限不行使は違法】

 6月17日に原発賠償4訴訟(生業、群馬、千葉、愛媛)に対して出された最高裁判決(4裁判官中3人の多数意見、1人の反対意見)は、極めて粗雑な「理屈」で国に損害賠償責任はないとし、3つの高裁(仙台、東京、高松)での「国に責任あり」とする判決を取り消した。この判決は、確立された過去の判例に反し、判断すべき事項を判断せずに「結論ありき」で無理やり国の責任を免罪した。後続の下級審を縛る規範性を到底持ちえない代物だ。

不当で粗雑な判決

 判決(以下、多数意見)の不当性はどこにあるのか。

 第一に、国の規制権限に関わる事項について判断していないことだ。まず大前提となる原子力安全規制法令の趣旨・目的を押さえていない。そのため、原発は「万が一にも事故を起こしてはならない」という、確立した判例(1992年伊方原発最高裁判決)の立場が完全に無視されてしまった。

 また、最新の知見で明らかになった敷地高を超える津波に対し、国が運転段階の規制を定める電気事業法の技術基準適合命令による規制ができるかどうかを判断しなかった。「長期評価」を踏まえた津波対策を東京電力に丸投げした保安院の対応(規制権限の不行使)の是非についても判断しなかった。

 多数意見は、そうした下級審で争点になった事項について判断を示すことなく、いきなり「結果回避可能性」の検討に入る。しかも、事故以前の津波対策は、「防潮堤の設置が津波対策の基本だった」としたが、すでに日本原電は東海第2原発の主要建屋の水密化を2008年から進めていた。

 多数意見は、想定された津波は南東側から来て浸水深は約2・6bだったのに対し、実際の津波は東側から来て浸水深は最大で約5・5bだったことを引き合いに出す。そして、想定された津波に対応した防潮堤を造っていたとしても津波の浸入を防ぐことはできなかった可能性が強い。だから、経産大臣が適切な措置を講ずるよう義務づけなかったからといって、損害賠償責任を負わせることはできないというのだ。

権限行使の必要があった

 こうした粗雑な多数意見に同調せず、判決形式の反対意見を書いたのが三浦守判事だ。

 反対意見は、電気事業法40条に基づく規制権限は「原子炉施設の従業員やその周辺住民等の生命、身体に対する危害を防止すること等をその主要な目的とし」ており、「最新の科学的、専門技術的な知見に基づき、極めてまれな災害も未然に防止するために必要な措置が講じられるよう、適時にかつ適切に行使されるべきものであった」とした。さらに、「原子炉施設等が津波により損傷を受けるおそれがある場合において、電気供給事業に係る経済的利益や電気を受給する者の一般的な利益等の事情を理由として、必要な措置を講じないことが正当化されるものではない」と断じている。

 反対意見は、地震本部の長期評価(三陸沖から房総沖の日本海溝寄りの領域のどこでもマグニチュード8クラスの津波地震が起きる可能性があると予測)について丁寧に検証したうえで、「基本的な信頼性が担保されたもの」と判断。その上で、設置すべき防潮堤について「本件敷地の南東側からだけでなく、東側からも津波が遡上(そじょう)する可能性を想定することは、むしろ当然というべき」と多数意見の独断的判断を否定した。

 また、「浸水を防止する水密化等の措置」については、「当時、国内及び国外の原子炉施設において、一定の水密化等の措置が講じられた実績があったことがうかがわれ、…浸水を防止する技術的な知見が存在していた」「水密化等の措置が講じられていれば、本件津波に対しても、非常用電源設備を防護する効果を十分にあげることができた」として、防潮堤や水密化によって「本件事故を回避できた可能性が高い」と結論づけた。

 保安院の対応については、「稼動中の原子炉施設が津波により損傷を受けるおそれが認められることは、極めてまれな危険といっても、具体的な危険を伴う事態であるから、最新の科学技術水準に即応して、できる限り速やかに、…適時にかつ適切に上記権限を行使(技術基準適合命令を発令)する必要があった」が、実際には「対応を耐震バックチェックに委ねる形で、これを先送りした」上、「指示から約4年6か月を経ても、本件発電所に係る最終報告が提出されないまま、本件事故に至った」のであり、「法令の趣旨、目的や、その権限の性質等に照らし、著しく合理性を欠くものであって、国家賠償法1条1項の適用上違法である」とした。


反対意見を力に勝利へ

 4訴訟原告団・弁護団の声明は、「三浦反対意見は、下級審で判断されたすべての論点について、原告からの提起を正面から受け止めたもので、『第二判決』と評されるもの」と評価している。また東電株主代表訴訟の弁護団の「意見書」は、多数意見は独自の(それも誤った)事実認定をしただけで「判例ではなく、下級審裁判官に対する拘束力はまったくない」とし、「三浦反対意見こそ、下級審の裁判官に対して規範を示す『真の最高裁判決』であるというべきである」と述べている。

 7月13日に東京地裁で、東電株主代表訴訟の判決が出された。この訴訟は、津波対策を怠ったことによって原発事故が起こり、東電が損害を被ったとして、株主が当時の経営陣に損害を賠償するよう求めているもの。判決は株主の訴えを認め、勝俣恒久元会長、清水正孝元社長、武黒一郎元副社長、武藤栄元副社長の4人に対し、連帯して13兆3210億円を支払うよう命じた。

 国の責任を争った先の原発賠償4訴訟とは原告・被告が異なる裁判ではあるが、検討された内容はほとんど重なる。東京地裁の判断は、三浦反対意見と基本的に同じであった。判決はまず「原子力事業者には、最新の科学的、専門技術的知見に基づいて、過酷事故を万が一にも防止すべき社会的ないし公益的義務がある」とした。これは伊方原発最高裁判決を受け継ぐ立場だ。

 被告武藤は、長期評価に基づくと最大15・7bの津波が来ると知らされ、土木学会に検討を依頼して時間を稼ごうとした。地裁判決はその結論が出るまでの間、過酷事故が発生するのを防止する津波対策を講ずるよう指示しなかったのは「津波対策の先送り」であり、「善管注意義務」を怠ったものと結論づけた。ここには、「最高裁判決」の影響は微塵(みじん)もない。

 「万が一にも原発事故を起こしてはならない」ということを基本に据えるなら、三浦反対意見や東電株主代表訴訟判決と同じ結論になる以外にない。今回の最高裁判決は、国・東電の免罪、原発推進ありきの政治的判決なのだ。後続の下級裁判所には、最高裁判決≠ニいう圧力に屈する者もいるだろう。それを跳ね返すには、法廷の中の闘いだけでは不十分だ。法廷闘争を支える広範な世論を広げ、地裁・高裁での勝利判決を積み重ねることで、最高裁での勝利判決をめざそう。

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