2022年08月26日 1736号

【福島第1原発汚染水放出工事/知事・町長の「同意」を糾弾/放出やめ海を守れ】

 福島第1原発の放射能汚染水を海洋放出するためのトンネル設備工事について、福島県と原発地元の双葉町、大熊町は8月2日「事前了解」を行った。事故の責任を取らず、世界の共有財産である海を汚して平然と居直る国・県・東京電力の暴挙を許してはならない。

問題は何ら解決せず

 福島第1原発の汚染水には様々な放射性核種が含まれており、原発敷地内に建てられたタンクに保管されている。ALPS(多核種処理装置)で放射性セシウムなどを除去後、どうしても取り除けないトリチウムだけを残した処理水を環境中に放出するというのが東電の計画だ。だが「ALPSは不完全で、多種多様な放射性物質の完全除去は不可能」と多くの専門家・市民が指摘する。

 実際、「ALPS処理水」の2017年の測定結果では放射線を発するヨウ素129、ルテニウム106、テクネチウム99が検出されている。この問題を審議してきた国のALPS問題小委員会報告(2020年公表)でも、トリチウム以外の核種を完全に除去できずに残されている水が全体の7割に及ぶ事実を認める。



 このような状態の水を「処理水」と呼ぶこと自体、汚染処理が終わっているかのような誤解に意図的に誘導するもので全く不当だ。

 ALPSの性能が不完全であることは導入段階でわかっており、トリチウム以外の核種を除去できる前提の計画はすでに行き詰まっている。放射性物質を完全に除去できないと知りながら海洋放出するのは犯罪に等しい。放射性物質を海洋汚染防止法の適用除外とし、免罪している国も同罪だ。

 仮に、トリチウム以外の核種を完全に除去できたとしても問題が解決するわけではない。トリチウムはベータ線を放出し、細胞内に取り込まれるとDNAに直接放射線を発し、傷つけるとして専門家は健康被害の危険性を指摘する。トリチウムの放出量が多い加圧水型原発の周辺地域で、白血病発症率や新生児死亡率が高まるとした研究論文もある。健康被害はあるのだ。

 トリチウムの半減期は約12・3年と放射性物質の中では比較的短いため、急いで放出する必要はない。長期保管を続けてトリチウムの減衰を待つべきだ。

地元との約束反故(ほご)に

 国・東電は「関係者の理解なしにいかなる処分も行わない」と約束し、2015年には野崎哲・福島県漁業協同組合連合会会長(当時)に文書も手渡している。

 野崎会長はその後も機会あるごとに海洋放出反対を表明してきた。全国漁業協同組合連合会の坂本雅信会長も7月25日、原子力規制委員会による工事認可に当たって反対を改めて示している。地元住民はもちろん、漁業者・漁業団体さえ反対する中での決定は約束を反故にするものだ。

 原発事故後、2011年8月に原子力損害賠償紛争審査会(原賠審)が示した賠償の中間指針では「いわゆる風評被害」についても賠償の対象となることを示している。健康被害については言うまでもない。

 東電株主代表訴訟の東京地裁判決(7月)では、旧経営陣に13兆3千億円もの巨額の弁償が命じられた。東電が反対を押し切って汚染水海洋放出に踏み切り、福島沖で捕れた魚の値下がりや売上減少など「風評被害」が起きた場合、その賠償も海洋放出を決めた経営陣個人の責任になる可能性がある。放出阻止の展望は運動と世論にかかっている。

地元の闘い支えよう

 国・東電の決定について、内堀雅雄福島県知事、地元2町長は国に「正確な情報発信」を求めるのみで抗議もしない。

 一方、海洋放出反対運動を続けてきた「これ以上海を汚すな!市民会議」の片岡輝美さんは「事前了解の先にあるのは海洋放出。私たち県民は納得しない。バカにされている思い」だとして国・県・東電を批判。今後も粘り強く闘い続ける意思を示す。海洋放出を阻止するため、全国から闘いを支えることが必要だ。

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