2022年08月26日 1736号

【読書室/コロナ禍で見えた保健・医療・介護の今後 新自由主義をこえて/日本医療総合研究所著 新日本出版社 2400円(税込2640円)/命守る共同性を取り戻す】

 新型コロナが引き起こした問題は人災である。人災であるならば、その原因を探らなければならない。すなわち、社会経済のあり方を問うことである。本書は、新自由主義がもたらした弊害に原因を求めている。

 新自由主義は、保健・医療・介護、雇用・労働などの分野でそれぞれが持つ公共性を弱めてきた。そのため各制度がますます機能を弱めてしまい、コロナ禍では入院が必要な状態にあるにもかかわらず治療を受けられずに自宅で亡くなる人が続出した。序章で指摘されるように「『医療崩壊』、そして『皆保険』の崩壊そのものであった」。

 本書は、日本医療労働組合連合会や医療福祉関係団体など現場の医療従事者らと連携する日本医療総合研究所が、昨年4月から9人が重ねてきた研究成果である。新自由主義による社会保障制度解体攻撃を具体的多角的に分析して問題を明らかにするとともに、「新自由主義をこえて」と課題を示している。

 小泉政権以降に強まる新自由主義的攻撃で保健・医療・介護などは弱体化した。医療では患者負担増や低診療報酬が進み、保健では保健所が削減され、介護では利用制限が強められている。

 課題とはなにか。考え方として、「公的責任と社会的基準にもとづく管理・運営によって社会保障の公共性・公益性を取り戻すこと」が強調される。共同性の獲得である。コロナ禍は、その必要性を浮き彫りにし、部分的ではあれ新自由主義とは真逆の施策を実施せざるを得ない状況をも作りだした。あくまで新自由主義に固執する政権に対し、本格的転換を迫っていかなければならない。本書の結論である。 (I)
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