2022年09月02日 1737号

【カジノを中止に追い込もう/政府観光ビジョン(年間6000万人来日旅行者)を基に架空の計算/住民合意なき整備計画は不認定だ】

 カジノ整備計画の申請期限から4か月。審査を受けているのは大阪府と長崎県の2件だけ。長崎では中核施設に位置づけているリゾート施設ハウステンボスの売却が進んでいる。大阪ではカジノの是非を問う住民投票条例直接請求署名運動が成功した。審査にあたる国土交通省は9月にも結果を公表するというが、経営見通しも住民合意もないカジノ計画を認定してはならない。安倍政権の負債を清算すべきだ。

「成長戦略」は幻想

 IRカジノ整備法は2018年成立した。アベノミクス3本の矢「成長戦略」に位置づけられたIRカジノ。安倍晋三元首相の負の遺産の一つだ。

 地域振興の手法として全国各地で進められたリゾート開発(1987年リゾート法成立)はバブル崩壊後、どこもお荷物になっていた。そこにカジノの「あぶく銭」をあてに再建の幻想を与えたのが、IRカジノだった。

 一時、北海道から九州・沖縄まで20もの自治体が検討した。最大3か所と制限をしたものの、結局、今年4月28日の申請期限までに提出したのは長崎と大阪だけ。バクチの稼ぎで地域振興できると考える方がおかしい。

 認定はどのように行われるのか。審査にあたっている観光庁が示した認定審査のプロセスによれば、まず、提出された整備計画が基本方針の要求基準に適合しているか確認される。次に、複数の整備計画について審査委員会が評価基準に基づき採点し、優劣をつける。その結果に基づき、国交大臣が3つを超えない範囲で認定する。審査対象となる整備計画が2つしかなければ、審査委員会が採点するまでもなく、観光庁の「適合」確認で認定できることになる。

 IRカジノが成り立つかどうかは来場者数によるが、基本方針は政府の「明日の日本を支える観光ビジョン」(2016年)にある2030年の訪日外国人旅行者6000万人目標がベースになっている。これ自体が現実離れ(コロナ前の実績3000万人強の倍)している上に、「この目標達成への貢献」が整備計画の評価基準とされている。要求基準で来場者数を直接示してるわけではないが、観光庁は基本方針に見合う希望的推計値を「適合」と判断するのだ。

皮算用で「適合」

 大阪カジノの整備計画を改めて見てみよう。計画書は国の要求基準19項目と評価基準25項目に沿ってまとめられている。来場者数については、要求基準18「IR区域の整備による経済的社会的効果」に記載がある。

 IRの年間来場者数を開業3年目で1987万人とし、このうち海外から629万人を見込む。この数はコロナ前の近畿2府4県に滞在した海外旅行者合計と同程度。つまり大阪カジノIRを目的に来日する旅行者が同じだけ増えると想定していることになる。ありえない数字だが、政府の基本方針が倍増である以上、これに適合するには最低限の数字なのだ。

 「来訪者数の推計方法」の説明には「IRの収益性に最も影響を与えるカジノ施設への来訪者を予測した上で、カジノ施設以外の来訪者数を予測した」とある。カジノ来訪者数は大阪カジノ事業者MGM(米国カジノ業者)の経験知を使ったという。想定収益をあげるために必要なカジノ来訪者数を決め、そこから逆算したことを示している。

 評価基準17「観光への効果」の項目で推計方法に多少の説明が加えられているが、「訪問率は海外のIRを参考に設定」とされている程度で、皮算用であることに変わりはない。MGMと連携する大阪カジノ事業者オリックスの担当者は「客は全員日本人を前提にプランニングを作っている。MGMの数字はあてにしていない」と大阪市議会の参考人質疑で答えている。整備計画は認定を得るための方便だと言っているに等しい。

 審査委員会はこんな記述をどう審査するというのだろうか。

評価0点でも「認定」

 8人の学者・医師で構成された審査委員会。メンバーは政府審議会などの常連組だ。委員長竹内健蔵東京女子大教授は交通政策審議会観光分科会長(当時)として観光ビジョン策定を後押ししている。

 審査委員会は非公開。「率直な意見交換及び意思決定の中立性を確保するため」という。カジノ事業者との接触、利益誘導を避けるためとしているが、今や0点であっても不合格にはならないのだから、審議過程を全面公開すべきだ。

 観光庁が示す評価(採点)基準では5分類25項目に合計1000点満点となる配点をしている。たとえば、「カジノ施設の設置及び運営に伴う有害な影響の排除等」の項目。ギャンブル依存症対策が「確実かつ効果的に講じられることが求められる」とする採点基準は150点の最大配点がされているが、15%の比重しかないということだ。

 「経済的社会的効果」の分類は3項目各50点で、ギャンブル依存症対策と同程度の比重。3項目はいずれも来訪者等の推計値について「説得力のある手法やデータを用いて精緻に推計されており、その推計方法が示されていることが求められる」。事業者の皮算用を検証することはないだろう。


合意形成マイナス点

 そんな中でも見ておかねばならない項目がある。「地域における充分な合意形成がなされており、IR事業が長期的かつ安定的に継続していくために地域における良好な関係が構築されていることが求められる」(評価基準23)。

 整備計画には府・市議会の議決経過の他、住民の意見を反映させる措置について4回の公聴会開催と1か月弱のパブリックコメントの実施を記載。だが、その内容には一切触れず、かわりに5年も前からの取り組みを載せ、「セミナーや出前講座等のアンケート結果では約9割の参加者が『よく理解できた』『ある程度理解できた』と回答」と記している。詐欺的行為だ。

 公聴会では40人の公述者のうち賛成は3人。寄せられた1497件の意見のうち賛成は5件。99・7%は反対意見だった。5月には住民投票を求める直接請求署名が21万筆集まっている。採点基準に照らせば地元合意はマイナス点である。

 市民が最も怒りの声をあげた税金の投入については、「大阪市議会が土地改良事業として限度額788億円及び2023年度から33年度までの債務負担行為を定めた予算案を可決した」と合意済みであることをアピールしている。

 観光庁とすれば「議会決議などの手続きはできている」。それで「適合」とする出来レースだ。

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 1兆円を超える資金を投入するビッグプロジェクトで景気回復が図れるなどという時代ではない。5500億円を融資する三菱UFJ、三井住友銀行や1000億円の出資をする20社の企業は冷静に考えるべきだ。投資が回収できないばかりでなく、大阪の財政が破綻し、地域経済が破壊される可能性の方が圧倒的に高い。「成長戦略」であるはずがない。出資企業、金融機関は市民の声を聞け。今なら間に合う。整備計画を取り下げ、大阪カジノを即時中止すべきだ。家庭も地域も破壊するカジノはどこにもいらない。

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