2022年09月09日 1738号

【厚労省 労働時間制度検討会 過労死つくる裁量労働制 「調査」ねじ曲げ導入急ぐ】

 「これからの労働時間制度に関する検討会」(以下、検討会)は7月15日、その議論をとりまとめた「報告書」を公表した。

 厚生労働省は、2021年6月に公表された「裁量労働制に関する実態調査」(以下「実態調査」)の結果を踏まえ、同年7月、検討会を設置。裁量労働制の制度改革案、裁量労働制以外の労働時間制度の在り方について検討を進めてきた。

 報告書では、「少子高齢化や産業構造の変化、デジタル化による働き方の変化やコロナ禍等による労働者の意識変化が進む中で、働き方に対する労使のニーズがより一層多様化しており、こうしたニーズに対応できるような労働時間制度の整備が求められている」とした。とりわけ、デジタル化の進展やテレワークの普及に伴い、「従来型の実労働時間規制にはなじまない労働者が増加し、柔軟な働き方へのニーズが高まっている」と強調されている。今後、要請に応えるという形で、裁量労働制の適用拡大をはじめとする労働時間規制の緩和に向けた攻撃が始まろうとしている。

やはり長くなる労働時間

 18年に労働基準法改定による裁量労働制の拡大案が国会で議論された。当時の安倍首相が、裁量労働制の労働者の方が労働時間が短いという厚労省のデータを挙げて答弁したものの、調査方法のずさんさが問題になり、答弁ともども拡大案自体が撤回された。その後、19年に裁量労働制の調査が新たに行われ「実態調査」として公表された。

 調査結果では、1日の平均労働時間が、裁量労働制の労働者は9時間、適用されていない労働者の8時間39分より約20分長かったことが特に注目された。やはり、裁量労働制の労働時間は短くなかった。

 世界保健機関(WHO)と国際労働機関(ILO)は、週55時間以上の労働によって脳・心疾患のリスクが高まると発表している。調査で週55時間以上の裁量労働制の労働者を調べると、15・7%にのぼり、通常労働者の9・8%を大きく上回った。裁量労働制の労働者は過労死のリスクが高い。

 21年6月に厚労省が公開した「過労死等の労災補償状況」によれば、20年の裁量労働制による過労死・精神障害は、労働基準監督署によって約30件の調査が行われている。うち7件が労災として認定され、死者は3人となっている。

 「深夜の時間帯(午後10時〜午前5時)に仕事をすること」については、裁量労働制の労働者のうち、「よくある」(9・4%)「ときどきある」(24・9%)で合わせて34・3%。また、「週休日や祝日などに仕事をすること」については、「よくある」(13・7%)「ときどきある」(32・2%)と、合わせて45・9%にのぼる。

 裁量があるのなら深夜や休日にも働くことも「自由」だが、あえて自分から積極的にこうした時間帯に働きたいと考える労働者がどれほどいるのか。これらの数字は、むしろ実際の裁量のなさを反映している。

 仕事の内容・量を「自分に相談なく上司が決めている」「相談の上、上司が決めている」の割合は、新商品・新技術の研究開発や情報処理システムなど「専門業務型」ではそれぞれ7・1%、20・4%で合わせて27・5%。事業の運営についての企画、立案等とされる「企画業務型」では6・8%、25・3%で合わせて32・1%。要は、約3割は結局上司が決めているのだ。


「影響なし」とウソ

 報告書は、「実態調査」の結果について「裁量労働制の適用によって、労働時間が著しく長くなる、睡眠時間が短くなる、処遇が低くなる、健康状態が悪化するといった影響があるとはいえないという結果となった」と白々しくウソをつく。

 裁量労働制は、実労働時間にかかわらず労働時間を一定の時間とみなす制度であり、実労働時間を規制して労働者の健康を守り生活時間の確保を図る労働基準法の大原則に反するものである。法案化を許してはならない。

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