2022年09月09日 1738号

【総費用は秘密、弔意は求めず/反対の声に動揺「安倍国葬」】

 政府は安倍晋三元首相の「国葬」の費用として、本年度予算の一般予備費から約2億5千万円を支出すると閣議決定した。これは式典のみの経費で、警備費や海外要人の接遇に使う費用は含まれていない。内閣府は「現時点で国葬関連の費用の全体像を公表する予定はない」としている。「税金の無駄遣い」との批判がよほど怖いのだろう。

 「批判が怖い」と言えば、弔意表明の閣議了解を見送ったこともそうである。松野博一官房長官は「国民に対して喪に服することや政治的評価を求めるものではないことをしっかり説明していく」と強調。自治体や教育委員会など地方機関に弔意表明の協力を要請することも「行う予定はない」と説明した。

 岸田政権のこうした動揺は、法律の裏付けがない「国葬」を閣議決定のみで強行しようとしていることに起因する。戦前の国葬令は新憲法の施行に伴い失効した。では、戦後唯一の例である吉田茂元首相の「国葬」(1967年10月)は、どのような法的根拠で行われたのだろうか。

 当時の佐藤(栄作)政権が着目したのは、貞明皇后(昭和天皇の母)の葬儀を準国葬として実施するにあたり、法務府(現在の内閣法制局)が示した見解である。「国葬を行うことは、行政作用の一部であるから、憲法上内閣の所管に属する。従って理論上は内閣の責任において決定し得る」というわけだ。

 実はこの見解には続きがある。「実際上は国会の両院において決議が行われ、それを契機として内閣が執行するという経緯をとることが望ましい」。ところが佐藤政権は都合の悪い部分を無視し、国権の最高機関である国会に諮ることなく、臨時閣議の決定で「国葬」実施を決めた。

 佐藤元首相はその8年後に死去したが、当時の三木(武夫)政権は、内閣・自民党・国民有志が主催する「国民葬」という体裁をとった。法的根拠のない「国葬」を野党の反対を押し切って行えば、今後の議会運営に支障をきたすと判断したのである(当時の国会は与野党伯仲だった)。

 つまり、「国葬」にはやはり法的根拠がなく、結局は反対意見を押し切れるか否かの力関係に左右されていることがわかる。

 自民党の二階俊博元幹事長は反対意見を念頭に「国葬は当たり前だ。やらなかったらバカだ」と言い切った。岸田政権がいかに「低姿勢」を取り繕おうが、連中の本音はこれだ。法律も民意も無視してよいなんて民主主義の冒とくであり、主権者をなめている。絶対に許してはならない。



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