2022年09月09日 1738号

【未来への責任(356)被害者の納得なしに解決はない】

 尹錫悦(ユンソンニョル)韓国大統領は今年の光復節の演説で、日本は「共に力を合わせて進むべき隣人」であり「韓日関係の包括的な未来像を提示した金大中(キムデジュン)・小渕共同宣言を継承し、韓日関係を早期に回復、発展させ」日本と韓国は「国際社会の平和と繁栄に共に寄与」すべきであると「未来志向」を唱えた。

 しかし「過去清算」に一切触れなかった。1998年に結ばれた日韓パートナーシップ宣言は「わが国(日本)が過去の一時期韓国国民に対し植民地支配により多大の損害と苦痛を与えたという歴史的事実を謙虚に受けとめ、これに対し、痛切な反省と心からのお詫び」をと、謝罪したうえでのものだった。

 このような尹政権のもとで、かつて「慰安婦」問題の合意時に事前に被害者らの意見を聞く場を持たずに批判された「経験」を踏まえ、被害者・支援団体を交えた徴用工問題解決のための「官民協議会」がつくられた。

 この協議会だが、三菱重工に強制連行された元女子勤労挺身隊被害者を支援する「日帝強制動員市民の会」は「加害者である被告三菱側の真実率直な謝罪と賠償以外に他の解決策はあり得ない」と不参加を宣言した。

 一方、日本製鉄の元徴用工被害者の代理人弁護士らは協議会に参加し、第1回協議会では「被害者が日本政府や日本企業と直接交渉できるよう外交的な努力を行うこと」を韓国政府に求めた。これは、被害者が判決の当事者である企業と直接交渉できるように韓国政府として被害者が持つ「請求権」について外交保護権を発動することを求めたものだ。そして「謝罪」に関しては「日本政府の強硬な態度をみると現実的には最低限でも日本企業の謝罪が必要」との立場を示した。「補償」については基金をつくり賠償するいわゆる「代位弁済」方式を進めるのであれば、被害者の「同意」を前提に基金へ被告企業が参加することが最低条件であるとした。

 ところが、韓国政府はこの協議会を開催する一方で、三菱の差押資産の「現金化命令」について外交部が「解決策作りのために多角的に外交的努力を傾けている」という事実上判決の先送りを求める意見書を被害者側には一切事前説明もなく大法院に提出していたことが明らかとなった。残り少ない被害生存者の権利行使を妨げるだけでなく司法に対する行政の介入に他ならない。

 この事態に、「訴訟妨害に準ずる重大な問題」であり政府との信頼関係は損なわれたとして、日本製鉄の被害者と支援団体も協議会から離脱した。

 韓国政府がいかに日本政府への安易な妥協策で「政治決着」を図ろうとも、被害者の納得のいく解決案でない限り徴用工問題は解決しないことを改めて示したものだ。

(日本製鉄元徴用工裁判を支援する会 中田光信)

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