2022年09月16日 1739号

【京都地裁がウトロ放火事件断罪の実刑判決 差別禁止法の制定急げ】

 2021年7月に韓国民団愛知県本部、名古屋韓国学校に放火、その後京都ウトロ地区の倉庫に放火した奈良県在住の22才の青年が逮捕、起訴された事件の判決が8月30日、京都地裁であった。求刑通り4年の実刑判決が言い渡された。

 放火された倉庫には、立ち退きを迫られていた当時の「私たちはウトロに住みウトロに死す」など自らの居住権を訴えた立看板など資料50点が保管されていた。それらはこの4月開館したウトロ平和祈念館に展示するはずのものだった。倉庫のみならず住宅や空き家7棟の建物が全半焼した。放火時に居合わせていれば大惨事になるところだった。

 犯行の動機について判決はこう述べる。「(名古屋の)事件が期待したほど世間の注目を集めなかったことからより大きな事件を起こして強く世論を喚起」するために看板を焼失させ平和祈念館の開館を阻止しようとしたことは、「在日韓国・朝鮮人という特定の出自を持つ人々に対する偏見や嫌悪感に基づく、誠に独善的かつ身勝手なもので、およそ酌(く)むべき点はない」。

 さらに「地域住民にとっての活動拠点が失われ、その象徴とされる立て看板等の史料が焼失するなどしており被害者らが被った財産的損害のみならず精神的苦痛等も大きい」「自己の意に沿わない展示や施設の開設を阻止するなどといった目的を達しようとすることは民主主義社会において到底許容されるものではない」とする判断を示した。

 ウトロ平和祈念館副館長金秀煥(キムスファン)さんは「立ち退き裁判で私たちを敗訴させた日本の司法がようやくウトロの存在を認めた」と語る

問題はヘイトクライムだ

 しかし、判決は、事件の根底にある人種差別、民族差別を理解しながら差別目的での犯行=「ヘイトクライム」と言わずに偏見や嫌悪感という「遠回し」の言葉でしか表現しなかった。

 報告集会で弁護団は「ヘイトクライムは個人の感情の問題でなく放っておけばジェノサイド(民族抹殺)につながりかねない重大な犯罪である」と指摘した。

 日本政府は、人種差別撤廃条約は批准しているが、人種差別について処罰立法措置を義務づける第4条を留保している。そして国連に対しては「人種差別的動機は、我が国の刑事裁判手続において、動機の悪質性として適切に立証しており、裁判所において量刑上考慮されているものと認識している」と「言い訳」する。

 だが、現行のヘイトスピーチ解消法にも罰則規定はなく、何より包括的な「差別禁止法」が日本では制定されていない。判決はその限界を示した。

 事件は、多くのマスコミの注目を浴びた。これを機に日本でも包括的な差別禁止法の制定が急がれる。

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