2022年09月16日 1739号

【首相「絶縁宣言」も口だけか/自民と統一教会 ズブズブの関係/安倍路線で依存度を高める】

 「旧統一教会(現・世界平和統一家庭連合)との関係を断つことを自民党の基本方針にする」。岸田文雄首相は記者会見でこう言い切った。しかし、甚大な被害を出してきた反社会的カルト教団とズブズブの関係になった理由については一切語らなかった。ならば代わりに説明しよう。

「反共」で結びつく

 「当法人および多くの友好団体は、創設以来、共産主義に明確に対峙してきた。共産主義問題に対して明確に姿勢をもっている政治家の皆さんとは、ともにより良き国づくりに向かって手を合わせてきたと思っている」。旧統一教会の田中富広会長の発言である。

 「友好団体」なるものは教団のダミー組織にすぎないが、それ以外は珍しく本当のことを言っている。統一教会と自民党は「反共・反左翼」で結びついてきた。その原点は半世紀以上前にさかのぼる。

 統一教会(世界基督教統一神霊協会)は文鮮明(ムンソンミョン)教祖が韓国で設立した新興宗教である。1961年に軍事独裁政権がクーデターで成立すると、教団は「反共産主義」を掲げる政権に接近。その庇護の下で勢力を拡大していった。

 黒幕は米国だ。米国にとって日本と韓国は「反共の防波堤」であり、民主化運動や労働運動、学生運動に対抗する勢力の組織化を急いでいた。米・韓諜報機関の支援を受けて成長した統一教会は日本に進出。右翼のフィクサーと言われた笹川良一を通して岸信介元首相と結託する。

 1968年、文鮮明は「国際勝共連合」なる政治団体を韓国と日本で立ち上げた。「共産主義をこの地球上から完全に一掃する」ことを目的とした反共謀略組織である。岸は発起人に名を連ねるなど、勝共連合が政財界に浸透する上で大きな役割を果たした。

 安倍派の古参議員は岸の狙いをこう明かす。「60年安保で、岸さんは右翼団体や暴力団を動員して学生運動を鎮圧したと言われています。70年安保では原理研(統一教会の学生組織)の若者たちに頼ろうと考え、勝共連合に接近したという話もある」

選挙の実動部隊

 ある右翼活動家はジャーナリストの伊藤博敏の取材に対し、原理研は頼もしい存在だったと当時を振り返る。「(大学闘争で)新左翼の連中と我々がぶつかり合い、どんなに激しい乱闘になり、殴られ蹴られても、絶対に退かないのが原理研の連中でした。腕自慢の体育会系の空手、合気道の奴らは、信念がないからすぐに逃げる」(現代ビジネス8/11配信記事)

 自民党内部への浸透も宗教的「献身性」が評価されてのことだった。教団に選挙運動員として訓練され、国会議員の下に派遣された信者の働きぶりをベテラン議員秘書はこう語る。

 「彼らは朝から晩まで有権者に電話をかけまくり、罵倒されても絶対にめげない。ポスターも一人で何百枚と貼ってくれる。やっぱり霊感商法で信者を獲得するノウハウと根性が生きているんだろうな、と思ったものです」(現代ビジネス9/2配信記事)

 いわゆる「汚れ仕事」も進んで引き受けた。相手候補のポスターをはがして回ったり、誹謗中傷のビラをばら撒くなどの選挙妨害である。特に、教団がサタンとみなす共産党候補への攻撃はすさまじかった。

 前述の秘書によれば、選挙で使う名簿を統一教会が霊感商法に利用しているという噂があり、問題視する人も党内にいたという。しかし「選挙に勝てばウヤムヤになるし、やはり統一教会はいい、強い、となる。そうして、なあなあで現在に至るというわけです」。

 霊感商法の被害者が聞いたら激怒する話だが、これが自民党の本音である。慢性的な運動員不足に悩む彼らにとって、強力な実動部隊を無償で提供してくれる統一教会は実にありがたい存在であった。だから数々の反社会的行為には見て見ぬふりをした。支援の見返りに教団の広告塔になるぐらい、「お安い御用」だったのだろう。

 ちなみに、岸の娘婿である安倍晋太郎元外相(安倍晋三元首相の父)は、統一教会の選挙ボランティアを取りまとめ、自派閥の候補者に派遣していた。安倍元首相は教団の組織票を差配していた。岸・安倍一族が統一教会を手駒としてきたことがわかる。

新自由主義の副産物

 衆院神奈川4区を地盤とする自民党の山本朋広衆院議員。教団主催の集会に来賓として出席し、韓鶴子(ハンハクチャ)・現総裁を「マザームーン」と讃えたことで有名になった。彼は当選5回だが、一度も小選挙区で当選したことがない。後援会組織もまともにないという。

 山本議員のように、自民党の中堅・若手には選挙基盤が極端に弱い者が大勢いる。ベテランであっても古くからの後援会組織が弱体化し、選挙運動が厳しくなっている。都市部ではこうした傾向が特に強い。

 なぜか。「構造改革」と称した新自由主義政策によって、建設業界、郵政、中小自営業、農業など自民党の伝統的支持基盤が崩れてしまったからである。安倍政権が進めた新自由主義路線は、自民党の統一教会依存度を高めることにもなったというわけだ。

 自民党関係者はこう打ち明ける。「教団票なんて、(創価)学会票に比べれば、たかが知れている。(中略)ただ、弱い後援会しか持たない議員にとっては票数の問題ではない。教団と縁を切ることは死活問題。選挙の実動部隊を失う恐怖があるのだろう」(「AERA」9月5日号)

 複雑に絡み合った統一教会と自民党の関係は岸田首相が「絶縁宣言」したぐらいでは解消されない。本当に正したいのであれば、まずは安倍元首相が関わった分も含めて過去の悪事を明らかにすることだ。(M)



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