2022年09月23日 1740号

【政府がコロナ「全数届出見直し」 医療拡充拒否し 無策・棄民政策を正当化】

 政府は、経済至上のウィズコロナ$ュ策に明確に舵を切った。新型コロナ感染者の氏名や疾患情報などを確認する全数把握を簡略化する。感染対策を市民の自己責任に押しつけ、医療拡充を拒否してきた政府の棄民政策を正当化し、コロナ感染とその被害を今まで以上に深刻化させるものだ。

「保健所崩壊」を口実に

 9月6日、岸田首相は「全数届出見直し」として簡略化する措置を26日から原則全国一律に適用すると発表。コロナ感染の届け出の対象を、全員から高齢者や基礎疾患のある人や妊婦等に限定し、対象外は自己検査・自己申告と個人にゆだねるというもの。

 コロナ感染症の全数の把握は対策の基本として重要だ。ひとつは防疫の面。感染者数の増減とスピードを分析し、流行の規模などを予測し必要な検査、病床数などを用意する。第2に、感染者の状態を把握し必要な医療的管理や治療に繋げるための基礎情報を作る。例え自宅療養者でもデータがあるからこそ、容体急変などにも対応が可能となる。

 では、なぜ否定するのか。

 8月22日、全国知事会は政府に全数把握の見直しを求めた。提言した平井・鳥取県知事は「全数把握にこだわりすぎて、医療機関や保健所が崩壊しかけている」と述べた。これは、当初200項目以上あった感染者情報管理システム・ハーシスへの入力作業などで医療機関や保健所が疲弊している実態を指している。

 本来、その対策として、感染拡大に対応して大規模検査会場を設置し入力業務の分散化や入力項目の簡素化などで医療機関の負担軽減をはかること、保健所の体制を強化することが必要と指摘されていた。これを怠ってきたのは政府だ。

 全数把握が医療機関や保健所の「崩壊」を引き起こしているのではない。根本原因は、保健所や病院・病床を削減してきた政府の医療・公衆衛生削減政策だ。岸田政権は、医療機関や保健所の負荷軽減を意図した知事会の提言を逆手に取り、経済・社会との両立≠フ名で棄民政策の徹底に舵を切った。この見直しは、全数把握の持つ意義を無視した本末転倒の措置だ。

高まる死亡リスク

 「全数届出見直し」として実質全数把握を否定することは危険だ。感染の実態をつかめず、必要な対策をとれない。特に容体急変に対応できない点で自宅療養者には深刻だ。「重症者をフォロー」と言うが、現在の重症者の基準は「人工呼吸器やECMO装着またはICUで治療」とデルタ株のときのまま。ここから外れれば、医療管理の下に置かれないことを意味する。

 今のオミクロンBA5では、軽症から持病悪化や脱水、全身症状で容体が急変して亡くなる人が大多数だ。重症者数は、1日最大で第5波時2223人、第6波は1507人、第7波637人と昨年9月のピーク時の3分の1以下に減少しているにもかかわらず、死者は2か月余り(7/1〜9/4)で1万人を超える。8月だけで8661人と過去最悪。重症者が数字上増えていないのに連日300人前後が亡くなる事態だ。そうした時点でのこの見直しは、軽症者が急速に重篤化し死亡するリスクを格段に高める。

 民間保険への申請もこの記録がベースとなるので、対象外の人には療養証明書が発行されず、保険申請ができなくなる。さらに、コロナの特徴である後遺症の実態もわかりづらくなり、後遺症への補償と治療体制は後退する。





医療拡充へ財政支出を

 「全数届出見直し」は、政府による棄民政策徹底の始まりだ。すでに8月2日、政府コロナ対策分科会の尾見会長らが医療や保健所業務のひっ迫解消を口実に検査や診療を制限する「提言」を出している。それを政府は本格的に実行し始めた。

 必要な感染防止施策や医療機関支援、生活・休業補償に財政支出を行うのでなく、ウィズコロナ≠ニして助かるはずの感染者を切り捨て、放置する。このコロナ無策=棄民政策を許さず、市民の命とくらしを守るため、医療・保健所体制の抜本的拡充を求めよう。
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