2022年09月23日 1740号

【未来への責任(357) 強制動員被害者救済へ決断の時】

 8月19日、日韓のメディアは、この日に大法院が「現金化」決定を出すか否かを巡り報道を過熱させていた。しかし、大法院は「審理不続行」決定を見送り、差し押えられた三菱重工の資産(商標権等)の売却は、とりあえず先送りされた。

 三菱重工は2018年11月29日の大法院判決を履行していない。確定した判決に従わない被告に強制執行を行うのは通常の法手続きに過ぎないが、執行を日韓関係を「破局」に導く一大事であるかのように騒ぎ立てるのは異常と言うほかない。

 徴用工問題で一番問題とすべきは「現金化」ではない。強制動員被害者の人権とその回復だ。

 9月2日、朴振(パクチン)外交部長官は光州(クワンジュ)に赴き、同市に住む被害者2人―日鉄訴訟原告の李春植(イチュンシク)さん、三菱重工訴訟原告の梁錦徳(ヤンクムドク)さんと面談した。李さんは朴長官に、「補償を受けられなかったため裁判をしたが、結果だけを受け取った。生きているうちに問題が解決することを望む」と語った。

 梁さんは朴長官に宛てて手紙を書いた。その中で梁さんは「お金が目的だったら、私はとっくの昔に諦めていたでしょう。私は日本から謝罪を受ける前に、死んでも死にきれません」と訴えた。

 李さんは98歳、韓国流の数え方では100歳だ。梁さんも1929年生まれで92歳。高齢の2人が日本の謝罪と賠償を待ち望んでおられる。「生きているうちに」「(このままでは)死んでも死にきれません」。この言葉を日本製鉄、三菱重工、そして日本政府はどう受け止めるのか。

 日本政府は口を開けば、問題は1965年の請求権協定で解決済みと言う。しかし「原則は全部消滅させるのであるが、その中で消滅させることがそもそもおかしいものがある」(1969年7月、小和田恒)との証言がある。

 1978年、最高裁は韓国人被爆者・孫振斗(ソンジンドウ)氏の原爆医療法を受けたいとの請求を認めた。さらに日本政府は1990年、在韓被爆者のために「人道医療支援基金」(40億円)を提供した。また、サハリン残留韓国人に対して、里帰り、永住帰国支援等の措置を講じた。日本軍「慰安婦」被害者に対しては、2015年「合意」で、国庫から10億円を拠出し、韓国の財団設立資金に充てた。

 これらの措置はいずれも「請求権協定で完全かつ最終的に解決済み」という主張は前提としつつ講じられたものである。

 強制労働条約という国際人道法に違反して強制動員された被害者に対しても同様の対応がとられるべきではないのか。

 また、日鉄、日本鋼管、不二越訴訟における和解解決を政府は「民事不介入」として容認した。

 被害者を救済すべく、日本政府は決断する時だ。

(強制連行・企業責任追及裁判全国ネットワーク 矢野秀喜)

MDSホームページに戻る   週刊MDSトップに戻る
Copyright Weekly MDS