2022年09月30日 1741号

【住民監視の土地規制法 全面施行/自治体に協力拒否を求めよう】

 土地規制法(重要施設周辺及び国境離島等における土地等の利用状況の調査及び利用の規制等に関する法律)が9月20日、全面施行された。自衛隊や米軍の基地、原発、離島の海岸線など、政府が安全保障上重要とみなした施設の周辺で、土地・建物の所有者・利用者の調査が行われ、施設の「機能を阻害する行為」が規制されることになる。

 政府は機能阻害行為の7類型を例示した(別掲)。だが、機能阻害の「明らかなおそれがある行為」も含まれる上、「勧告・命令を行うか否かは、個別具体的な事情に応じ、適切に判断する」と明記。政府の一存で規制が際限なく拡大していくのは確実だ。

 北海道新聞(9/5)はこんなシミュレーションを行っている。――札幌駐屯地近くに住むAさん宅を内閣府の職員が訪ね、「ベランダに設置のアンテナは駐屯地の電波妨害に使われる可能性がある。外さなければ政府が勧告・命令を出す。従わなければ2年以下の懲役や200万円以下の罰金となる」「地域住民からも、あなたは怪しいと情報提供があった。調べた結果、あなたは電波妨害する『明らかなおそれ』があると認められた」と告げた。身に覚えのなかったAさんだが、アンテナを外し、住み続けるのが怖くなって、引っ越すことにした。――

 法第8条は「内閣総理大臣は…注視区域内にある土地等の利用者その他の関係者に…報告又は資料の提出を求めることができる」と定める。土地・建物を一緒に使う家族や友人、知人も調査対象となる。閣議決定された基本方針には「重要施設を所管する関係行政機関、運営する事業者、地域住民らから、土地等の利用状況や現場の実態などに関する情報提供を受け付ける体制を内閣府に整備する」とある。国が密告の受付窓口を設けるというのだ。

 機能阻害行為の可能性の有無を調査するのだから、調べるのは土地の所有者の住所・氏名などにとどまらない。対象人物が何を考えているか、その日常や生き方にまで踏み込んだ調査になる。馬奈木(まなぎ)厳太郎(いずたろう)弁護士は「市民社会の中での分断を助長する。特定の国の人びとを敵視し、基地周辺住民を『犯罪者予備軍』扱いする発想に支えられている」と批判する。

 土地規制法の発動をどう止めるか。馬奈木弁護士は「この法律は自治体の協力がなければ動かない。自治体が中央政府の言いなりになっていいのか。法律の危険性をどれだけ伝えられるかに尽きる」と強調する。

 区域指定される自治体に「反対」を表明させ、政府への「協力」を拒否させる取り組み、それらをつなぐ全国的なネットワークづくりが急務だ。

機能阻害行為の7類型

■自衛隊等の航空機の離着陸の妨げとなる工作物の設置

■自衛隊等のレーダーの運用の妨げとなる工作物の設置

■施設機能に支障を来すレーザー光等の光の照射

■施設に物理的被害をもたらす物の投射装置を用いた物の投射

■施設に対する妨害電波の発射

■流出することにより係留施設の利用阻害につながる土砂の集積

■領海基線の近傍の土地で行う低潮線の保全に支障を及ぼすおそれのある形質変更
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