2022年09月30日 1741号

【市民を直撃する円安・物価高 大企業のための金融政策=アベノミクスをやめる】

 全世帯の53・1%が「(生活が)苦しい」と回答した。9月9日に公表された厚生労働省の「2021年国民生活基礎調査」の結果だ。児童のいる世帯に限ると、59・2%にもなる。同調査の直近5年間の推移を見ても「苦しい」が50%を超えており、人びとの生活に余裕がないことは明らかだ。この調査結果は、まだ物価が比較的安定していた昨年7月時点のもの。急激な物価高が進む現在、「苦しい」がさらに増えていることは間違いない。

円安が物価高に拍車

 物価をさらに押し上げるのが円安だ。内閣府も「(輸入物価への)円安の影響は7月時点で全体の上昇の5割程度」(9/9「物価の動向について」)と分析する。7月時点では1ドル=130円台後半だったので、円安に歯止めがかからなければ物価はさらに上がる。

 9月に入ると対ドル円は140円を超え、7日には1ドル=144円へ急落した。今回の円安は、直接は投機筋の日米間金利差を利用した円売りドル買いが要因だ。加えて、「これほど円安が大きく動いたのには、背景に日本政府から円安に対する切迫感が感じられないとマーケットがみていた」(9/7ロイター)との指摘がある。

 一連の物価値上げについて帝国データバンクは「原材料費の上昇に加え、一時は1ドル140円台に迫った急激な円安による、輸入コストの上昇を主な値上げ理由とするケースが目立った」とする調査報告(8/1)を出した。岸田政権は、こうした円安―物価高をまったく放置している。




低所得層に深刻な影響

 まず、この物価高に直撃される低所得層の実態はどうか。「食事の回数を減らさないと家計が回らない―。一般社団法人『ひとり親支援協会』(大阪市)が、低所得の子育て世帯を対象に実施した調査で、9割以上が物価高騰による生活苦を感じている」(8/27日経)という。調査では「自分は食べずに、子どもを優先して食べさせる」など深刻な声が紹介され、物価高が続くとますます苦境に追い込まれる人が増えていく。

 次に企業を見よう。

 大企業とりわけ製造業などのグローバル企業にとっては、円安や資源高はむしろ収益を押し上げた。4〜6月期法人企業統計調査で経常利益28・3兆円と過去最高を更新。2021年度末の内部留保は史上初めて500兆円を突破した。

 中小零細企業に目を移すと事態は全く違う。中小の多い近畿地区の「円安による企業業績への影響調査」(9/8帝国データバンク大阪支社)では、「円安が自社業績に『マイナス』と考える企業は 62・1%」だ。さらに今、新型コロナ関連融資の返済が始まっているが、業績をコロナ前の水準に戻せないまま、資材高や物価高なども加わり、返済資金を捻出できない企業が続出。「過剰債務に陥った企業の息切れや脱落が件数をさらに押し上げ、コロナ破たんは引き続き増勢をたどる可能性が高まっている」(9/7東京商工リサーチ)という。今後、倒産が増えると予想されるのだ。


経済政策の根本転換を

 現在の円安を生み出した要因にアベノミクスの金融政策がある。この政策は、平たく言えば、お金の量を増やして無理やりにインフレ(物価高)を起こそうとするものだ。各国が金利を上げる中でも金利を低くしたままなので円安をもたらし、円安は巨大な海外売上高(輸出と現地法人の合計)のグローバル企業の儲けを増やし株高も促した。その株を多く持つ富裕層と大企業に恩恵は集中した。

 来年3月期に1ドル140円であれば、上場企業全体の経常利益は前期比8%増、トヨタ自動車では4500億円の収益増と報じられている(9/13日経)。

 アベノミクスの継承では、円安と物価高は加速の一途だ。岸田政権に、市民のくらしを守る給付や消費税減税、中小企業支援を迫るとともに、アベノミクス―金融緩和策をやめさせなければならない。これが円安と物価高への根本的な対策となる。
MDSホームページに戻る   週刊MDSトップに戻る
Copyright Weekly MDS