2022年09月30日 1741号

【五輪汚職事件と沖縄ヘイト/もとを正せば安倍晋三/「国葬」は嘘と差別の正当化】

 「国葬」は憲法違反であり、対象者が誰であっても反対である―。本欄ではこうした視点を強調してきたつもりだが、やはり安倍晋三元首相の評価に触れねばなるまい。彼は「国葬」という国家的追悼・顕彰に値する政治家なのか。答えはもちろん否である。

広がる反対の声

 「安倍国葬」に反対する取り組みが全国各地で行われている。さいたま市では9月11日、花を携え性暴力の根絶を訴える「フラワーデモ」が行われ、参加した市民が「国葬反対」を訴えた。72歳の女性はこう語る。「安倍政権は安保法制や共謀罪で憲法を無視し、国会を無視し、国民を無視してきた。統一教会(現・世界平和統一家庭連合)の関係を検証する必要があり、国葬反対を言い続ける」(9/13埼玉新聞)

 同感だ。多くの人が同じ思いであろう。もっとも、改憲策動や旧統一教会との関係、モリカケサクラ問題は言い尽くした気もするので、今回は別の角度から「安倍国葬」をしてはいけない理由を述べてみたい。


汚職の中心と接点

 東京五輪・パラリンピックを舞台とした汚職事件が広がりを見せている。大会スポンサー契約に関する贈賄容疑で、紳士服大手AOKIホールディングスの前会長や、出版大手KADOKAWAの会長らが東京地検特捜部に逮捕された。また、大会組織委員会の会長だった森喜朗元首相や、副会長を務めた竹田恒和・日本オリンピック委員会前会長が特捜部から任意の事情聴取を受けた。

 五輪汚職の中心人物は受託収賄容疑で逮捕された高橋治之・大会組織委元理事である。高橋容疑者は電通の元専務で、東京五輪招致をめぐる買収疑惑でも名前が上がっていた。彼は知人に対し、自分を招致活動にスカウトしたのは安倍元首相だと話していた。

 「安倍さんから直接電話を貰って、『中心になってやって欲しい』とお願いされたが、『過去に五輪の招致に関わってきた人は、みんな逮捕されている。私は捕まりたくない』と言って断った。だけど、安倍さんは『大丈夫です。絶対に高橋さんは捕まらないようにします。高橋さんを必ず守ります』と約束してくれた。その確約があったから招致に関わるようになったんだ」(『文藝春秋』10月号)

 改憲運動に弾みをつけるためにオリンピックを招致したかった安倍元首相ならやりそうなことである。世界が注目する招致演説の中で「(福島第一原発事故の状況は)コントロールされている」と大嘘をついたことはあまりにも有名だ。

 このまま「安倍国葬」が実施されるなら、虚言を弄して腐敗五輪を引っ張ってきたことが故人の「功績」として語られるだろう。それでいいのか。もちろん、納得できるはずがない。

言論を劣化させた罪

 先日行われた沖縄県知事選挙で、「辺野古新基地反対」を掲げる玉城デニー知事が再選をはたした。この結果に不満を抱く者が、沖縄ヘイトの言説をSNSなどでまき散らしている。「沖縄土人に選挙権は早かったね」「沖縄人、日本から出ていけ」「令和の琉球処分が必要だ」等々。

 「沖縄を中国の属国にしたいデニー候補。ウイグル・モンゴル・チベットのように日本民族も強制収容所に入れられ民族浄化(虐殺)されます」と、選挙期間中にツイートした地方議員もいた。大阪府泉南市の添田詩織市議である。

 添田市議は無所属だが、自民党と会派を組んでおり、長尾敬前衆院議員や谷川とむ衆院議員ら自民党国会議員の支援を受けている。2人とも安倍派で、言論弾圧、沖縄侮辱の暴言が飛び交った党内勉強会「文化芸術懇話会」に参加していた(2015年6月)。

 つまり、ネット上にはびこる沖縄差別のデマ攻撃は自然発生的な現象ではない。沖縄に基地を押しつけてきた安倍政権の応援団たちが燃料を投下し、ネトウヨを焚きつけているのである。こうした世論工作を安倍政権はいち早く取り入れ、政権擁護や反対運動つぶしに使ってきた。

 その結果、日本の言論空間はすっかり劣化した。偏狭なナショナリズム、排外主義、歴史修正主義、外国人差別、自己責任論の煽動を売りにする文化人や芸能人(たいていは安倍支持者)が人気者になり、その「過激な言動」に世論が引きずられていった。安倍政権が日本をヘイトスピーチ大国にしたのである。

   *  *  *

 「国として葬儀を行うことで、民主主義を守り抜く決意を示す」。先日の閉会中審査で岸田文雄首相はこう言った。しかし安倍政権がやってきたことは戦後民主主義の解体である。「安倍国葬」はそれを正当化し、継承を誓う政治イベントだ。民主主義に敵対する祭典なのである。    (M)

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