2022年10月14日 1743号

【「台湾有事」に備え避難シェルター計画/戦時モードをあおる政府許さぬ】

 岸田政権は本気で戦争するつもりでいるのか。報道によれば、内閣官房は「台湾有事」を想定し、沖縄県石垣市などの先島諸島にシェルター設置の調査費7000万円を来年度予算の概算要求にあげているという。

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 「台湾有事」の対中国日米共同作戦は沖縄の島々を戦場にする。それに備え、不足する住民の避難先をその戦場となる島々に確保するのだという。すぐに思い浮かぶのが77年前の沖縄戦。自然壕「ガマ」に逃げ込むしかなかった住民の悲劇だ。結局、数か月で県民の4人に1人が犠牲となった。政府は何の反省もなく、これを再現するつもりらしい。

 南西諸島(琉球弧)の200近くある島の内、約40の島々を移動拠点にする米海兵隊の高機動ロケット砲「ハイマース」と宮古島や石垣島などに配備された自衛隊ミサイル部隊が中国艦船に照準をあわせる。互いがミサイルを撃ち合う状況に、自衛隊制服組幹部は「住民を避難させる余力はない。自治体にやってもらうしかない」と断言する。「国を守る」という軍隊は住民を守らないことは歴史が証明している。


避難は不可能

 自治体は「武力攻撃事態等における国民の保護のための処置に関する法律」(国民保護法)によって、住民の避難計画をつくることとされている。あたかも自然災害の避難計画と同列に置かれているが、いつ戦闘が始まるのか知る術もない自治体が、住民を事前に避難させることなどできるわけがない。ましてや、周辺一体が戦場となった離島からどこに避難するというのか。約50の島に暮らす150万人の県民と観光客は逃げることなどできない。

 石垣市、竹富、与那国両町でつくる八重山市町会が7月、沖縄県にシェルター設置を求めた。石垣市、竹富町の住民・観光客合わせて約6万5千人が避難するには10日弱必要と試算さている。延べ400機以上の航空機の調達が必要だという。宮古島など他の島でも同様に航空機がいる。誰が考えても不可能な計画であることがわかる。

 では、シェルターで住民を守れるのか。収容能力に限界がある以上、シェルターに入れる者と入れない者を峻別することが起こる。いつまで避難しているのか。その間、水・食糧など命をつなぐ備蓄はできるのか。ロケット弾に耐えられる堅固なものができるのか。

 まともな考えとは思えない。

「諦めと危機」あおる

 なぜ政府はあえてシェルター計画を持ち出したのか。人びとの意識に、戦争は避けられないかのような諦め感を刷り込み、身に迫る危機感をあおり戦争協力に誘導するためだ。

 石垣島では自衛隊ミサイル基地建設が急ピッチで進んでいる。宮古島でもそうだ。奄美大島では「継戦能力を高めるために弾薬の備蓄を増強する」(9/6 浜田防衛相)という。

 米政府はペロシ下院議長や連邦議員団の訪台を許し、バイデン大統領は米軍による台湾防衛に「イエス」発言を続けている。あからさまな中国挑発行為に日本政府は加担し、軍備増強に利用している。

 毎日報道されるウクライナ戦争。「徹底抗戦」を支持する日本政府やマスコミは地下鉄駅に避難した市民の姿さえ、ロシアへの憎悪を掻き立てる効果として利用している。決して戦争を引き起こしてはならないという教訓を読み取らない。

平和外交を尽くせ

 だが、唯一の地上戦を経験した沖縄は違う。地下室に身を寄せ合うウクライナ市民や破壊されつくした街並みは77年前の沖縄なのだ。

 2021年12月末に対中国日米共同作戦が暴露されるやいなや、今年1月、沖縄戦の悲劇を繰り返すなと「ノーモア沖縄戦 命どぅ宝の会」が結成された。武力によらない「国際対話」による解決を呼びかけた。今回、政府のシェルター計画が報道されるとすぐに、「戦争を前提とするな、外交努力を行え」と抗議の声をあげた。「この島から出ていくべきは軍事組織の方だ」(ノーモア沖縄戦 命どぅ宝の会発起人、映画監督、ジャーナリスト三上智恵)。

 日中国交正常化50周年の今年こそ、「戦略的互恵関係」(08年日中共同声明)、「お互いパートナーであり、脅威とならない」(18年日中新時代3原則)に立ち返り、軍事的敵対を今すぐにやめるべきだ。

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 沖縄県は9月30日、辺野古新基地建設のための公有水面埋め立て変更不承認に対する国土交通大臣裁決の取り消しを求め那覇地裁に提訴した。玉城デニー知事は「辺野古に新基地はつくらせないとの公約実現に向けて、ぶれることなく全身全霊で取り組む」とコメントした。基地をなくす。住民を守るもっとも効果的な方法だ。

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