2022年10月14日 1743号

【岸田「新しい資本主義」と無権利のフリーランス拡大 労働法の拡充こそ必要】

 9月13日、内閣官房の新しい資本主義実現本部事務局は、突然「フリーランスに係る取引適正化のための法制度の方向性」を発表し、パブリックコメントの募集を開始した。

 フリーランス=個人事業主として働く人は462万人(政府試算、2020年)で就業者全体の約7%。情報技術(IT)やデザイン関連、配送、建設など業種も多岐にわたる。

 「フリーランスの労働環境の整備」を目的に、新たな法律を制定するという。依頼主の企業などに対し、仕事を募集する際に報酬額や仕事の内容、納期などを明示し、契約の書面交付を義務づける。契約後に業務を途中で解除するか契約を更新しない場合は、30日前までの予告義務規定を設ける。フリーランス側に落ち度がない場合の報酬減額や、納めた商品の受け取り拒否等を禁じるとするものだ。


自由にこき使える労働者

 安倍政権下「働き方の未来2035 懇談会報告書」(16年)は「個人が、より多様な働き方ができ、企業や経営者などとの対等な契約によって、自律的に活動できる社会に大きく変わっている。独立して活動する個人も増えるという大きな構造変化が生じる」とし、労働法で保護されない企業が自由にこき使える労働者≠フリーランスの名で拡大することを提唱。これが岸田政権「新しい資本主義」の労働政策(労働移動の円滑化、多様な働き方の推進、フリーランスの環境整備)に継承されている。

 フリーランスは、個人としての立場の弱さから、依頼主から不利な契約変更をされても泣き寝入りせざるを得ないケースが多い。しかし、政府の考える新法制定は、フリーランスと依頼主企業との力関係を変えるものではなく、その労働者性を認め保護規定を作るものでもない。

 フリーランス=個人事業主とされる労働者の実態を見てみよう。

Amazon

 ネット通販Amazon(アマゾン)の荷物の宅配業務を行う会社、丸和運輸機関と業務委託契約をするドライバーは、集配所に荷物を取りに行く時間は定められ、1日あたり200個前後の荷物を担当。配達が早く終わっても、遅れている別のドライバーの荷物を引き受けるよう会社から指示され、1日に働く時間は12時間以上になることもある。どれだけ運んでも報酬は1日で固定だ。

 配達状況は、スマートフォンの位置情報で同社に把握される。契約で月に働く日数が定められているが、「人手が足りない」と急な休日出勤を求められることもある。契約書には同社の指示に従うよう記され、違反すれば契約を解除される項目がある。

 労働基準監督署は、同社に対し個人事業主への業務委託について、一部の個人ドライバーとの関係が「事実上の雇用関係にある」と認定し是正勧告を行った。

フードデリバリー

 フードデリバリーサービス配達員は、配達するかどうかは自由と考えられがちだが、オンラインによる配達のリクエストを拒否し続けると最終的にアカウント停止につながる。会社側からは「応答率が低い場合、配達パートナーの皆様にはアカウントを停止する場合もある」と、自由とはほど遠い。また、レストラン等と注文者から配達の注意事項が示され、それにしたがった配達が求められる。

 プラットフォームシステムの中に使用従属関係が組み込まれている。仕事にともなって事故、労災はつきものだ。同じ仕事をすれば一般労働者同様、労災適用が当然だが、現実にはきわめてハードルが高い。

ITエンジニア

 IT業界で、システムやソフトウェア開発の分野で主流になりつつある「アジャイル開発」。「計画→設計→実装→テスト」の開発工程を最小限の機能単位サイクルで繰り返す開発手法だ。運用にあたっては、開発チーム内の綿密な連携が不可欠となる。そのため、企業がプロジェクトを外部委託する場合、受注した企業のエンジニアへの直接指揮命令を禁じた労働者派遣法(偽装請負の禁止)に触れる可能性が非常に大きい。受注側のエンジニアが「支配や制約を受けず自律的に判断して開発に携わっている」などあり得ず、違法な偽装請負が横行している。



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 多くのフリーランスは、実際は労働者であり、契約先から指揮命令され時間管理され賃金を削られる存在である。フリーランスの拡大ではなく、フリーランスを規制する労働法制の拡充こそが求められている。
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