2022年10月14日 1743号

【読書室/原発再稼働 葬られた過酷事故の教訓/日野行介著 集英社新書 900円 税込990円/再稼働ありきの実態を暴く】

 本書のサブタイトルは「葬られた過酷事故の教訓」だ。本書は、福島原発事故の教訓を生かすことなく再稼働を前提とした原子力行政の実態を、粘り強い調査報道で暴いたその取材過程を明らかにしている。

 前半は、原子力規制委員会の問題を取り上げる。

 関西電力の美浜、高浜、大飯(おおい)の3つの原発は2017年までに安全審査に「合格」していた。しかしその後、関電が想定した火山灰の最大層厚「10センチ」が過小評価であるという指摘が規制委員会で問題となる。本来であれば「安全基準不適合」として、安全審査をやり直すはずだが、更田(ふけだ)豊志委員長は一部の委員、規制庁幹部と秘密会議を持ち、「関電に火山灰の想定を見直すように指示し、自発的に設置変更許可申請を出させる」と結論を出した。その意図は原発停止を避ける所にある。著者は、秘密会議の録音データを入手し、更田委員長を追及した。

 後半は、原発30キロ圏内の住民避難計画の問題。

 東海村原発を抱える茨城県の避難対象は96万人。その避難民を受け入れる周辺自治体の避難所の収容人員が体育館のトイレなど非居住スペースまで含めた面積をもとに計算されていた問題だ。指摘を受けた県の再調査の結果、収容人員が大幅に減少、避難所不足が生じた。しかし、その実態を隠蔽し、一部の自治体は収容人員を変更せず避難計画を策定した。原発避難計画は「絵に描いた餅」、再稼働のためのお飾りなのだ。

 9月、岸田政権はこうした実態の再稼働の加速化に加え、事故後初めて原発新増設まで口にした。それはフクシマの再来につながっていく。本書はその大きな警鐘となっている。(N)
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