2022年10月21日 1744号

【緊張高める朝鮮ミサイル発射/「撃つほどわれわれを利する」と官邸/軍事費倍増で先制攻撃力整備】

 朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)政府は、9月末からミサイルの発射実験を繰り返している。日米韓軍事訓練に対抗と主張するが、東アジアの軍事緊張を高め戦争勢力を喜ばせるものでしかない。朝鮮は「金(キム)体制存続」のために一貫して核ミサイル開発を続け、市民の生活苦は解消されないままだ。軍事最優先の「先軍政治」は朝鮮だけに限らない。軍事費倍増を掲げる日本政府も同類だ。

軍事挑発をやめよ

 朝鮮が10月4日、日本上空を通過するミサイル実験を行ったことで日本政府、メディア一体の「朝鮮脅威」大宣伝が一段と高まった。一方、朝鮮外務省は「朝鮮半島と周辺地域の情勢の安定に厳重な脅威を与えている」と8月末から続く日米韓軍事訓練への対抗措置だと発表した(10/6毎日)。

 米韓は「朝鮮半島有事」を想定した軍事訓練を4年ぶりに再開。多連装ロケット砲の実射を含め、9月末まで断続的に続けた。この軍事訓練は、南北首脳会談や米朝首脳会談が実現した時期は中止されていたが、米韓ともジョー・バイデン、尹錫悦(ユンソンニョル)へと大統領が代わり、再開された。9月30日には海上自衛隊も加わり、5年ぶりの日米韓3国合同演習となった。



 日米韓は、朝鮮が中国共産党大会の終了(10/22)から米国中間選挙(11/8)までの間に7回目の核実験に踏み切ると想定し、共同行動体制を維持するつもりでいる。いまも米原子力空母「ロナルド・レーガン」が近海に控えている。

 双方が「重大な脅威」と言い合い、軍事行動をエスカレートさせるのは愚かとしか言いようがない。直ちに軍事演習をやめるべきだ。

疲弊する市民生活

 金正恩(キムジョンウン)は2019年に米朝首脳会談がとん挫した後、それまで以上に核ミサイル開発に注力してきた。21年の党大会では「最強の軍事力を確保しなければならない」と国防5か年計画を打ち出し、22年に入って各種のミサイル開発・実験を繰り返している。10月6日までに45発が発射されている。





 10月4日発射の中距離弾道ミサイル「火星12型」は射程5000`b。グアム島の米アンダーセン空軍基地を射程に入れる。核兵器を搭載する戦略爆撃機の発進基地が狙いだ。米大陸に届く世界最大級といわれる大陸間弾道弾「火星17型」の実験も3月に成功したと公表している。

 従来の弾道ミサイルに加え、変則軌道で飛翔する誘導弾や極超音速ミサイルの実験も行われている。短距離から長距離までのロケット技術はほぼ手にしたとすれば、残るのは弾頭に搭載できる核の小型化。次の核実験の準備は既に終えたといわれている。

 だが、ミサイル発射には短距離ミサイル1発で300万〜500万ドル(約4億〜7億円)もかかる。中距離で1000万〜1500万ドル、大陸間弾道弾ではその倍が必要と米シンクタンクのランド研究所が試算している(2/11聯合ニュース)。朝鮮がこれまでに撃ったミサイルの費用は今年だけで約3億ドルにのぼる。さらに核実験には1回3億ドル(韓国情報当局)が必要だ。経済的負担はきわめて大きい。

 朝鮮のGDPは300億〜400億ドル。軍事費は75億ドル(22年版世界軍事ランキング)、実にGDP比20%前後となる額だ。人口約2580万人の朝鮮は干ばつとコロナパンデミックの中で食糧難に陥っている。ミサイル発射に費やされた3億ドルがあれば、今年想定される80万トンの食糧不足(8/29聯合ニュース)を補うことができる。市民が飢え死にする状況でもなお、ミサイル開発に資金を投じることなど許されるものではない。

日本も軍事優先

 軍事優先政治が招く悲劇を「独裁国家の愚かさ」と見ることはできない。日本政府もまた軍事優先政治にのめりこもうとしているからだ。

 「ミサイルを撃つほどわれわれを利するという事実を、北朝鮮は分かってないようだ」(10/5毎日)と官邸筋はほくそ笑んでいる。軍事費を5年間で倍増させる追い風となるからだ。

 毎年1兆円以上の上乗せを続け、27年には10兆円超をめざすことを政府与党は早くから口にしている。これからの問題は予算編成に向けて財源をどうするのかが問われることだ。社会保障や医療費・教育費など市民生活に直結する予算削減が狙われるのは間違いなく、市民の反発は必至だ。「朝鮮の脅威」は、「台湾有事」やウクライナ戦争とともに、軍事強化を受け入れやすくする効果が絶大だ。

 しかし一方で、今回の朝鮮のミサイル発射は、これまでの「ミサイル防衛」がいかに虚構に満ちたものかを改めて明らかにした。

 10月4日、5年ぶりに起動させたJアラートは、ミサイルが頭上を通過してから「避難」を呼びかける間抜けぶりをさらした。これは市民への警報遅れだけの問題ではない。ミサイル発射直後の速度や角度から瞬時にその軌道を計算し、迎撃することなど不可能なことが暴露された。稲田朋美元防衛大臣は「ミサイルをミサイルで撃ち落とす防衛のみならず、反撃する能力を持っていないと、結局日本を守ることができないと思う」(10/4自民党国防部会)と発言した。先制攻撃力を備えよと言っているのだ。

 極超音速ミサイルや変則軌道でレーダーをかわすミサイルに対抗するには、発射される前に破壊する以外にないことになる。年内に改定される軍事3文書はこの「先制攻撃」論を正当化する文脈が用意されるに違いない。

朝鮮戦争終結を

 「敵」に負けるなと軍備増強を進めた結果がどうなるかは、誰の目にも明らかだ。際限のない軍拡競争は核兵器に行き着いた。破壊と殺人のために税をつぎ込む一方、医療や教育、社会保障の予算は削減され、水準の低下を招くのは必至だ。

 朝鮮が核やミサイルの実験を封印した時期があった。米朝首脳会談や南北首脳会談が行われた時期だ。

 今年は日朝平壌(ピョンヤン)宣言20周年にあたる。小泉純一郎と金正日(キムジョンイル)両首脳が調印した共同宣言は、植民地時代の清算、国交正常化をうたい、拉致被害者の帰国に結びつく成果があった。この時も、朝鮮はミサイル発射を停止した。

 朝鮮戦争の休戦から来年は70年を迎える。今まさに朝鮮戦争の直接・間接の交戦国である米・日・韓3国とロシア・中国・朝鮮の間で軍事緊張が高まっている。このまま緊張が激化し、朝鮮戦争を再開するようなことがあってはならない。一刻も早く、朝鮮戦争終結に関係国は応じるべきだ。全世界1億人を目標に進められている「朝鮮半島終戦平和宣言」への賛同署名運動は一層重要な取り組みになっている。
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