2022年10月28日 1745号

【みるよむ(636) 2022年10月15日配信 イラク平和テレビ局in Japan 偽造されたイスラム聖廟で大事故−悲劇を告発する−】

 2022年8月、イラク中部カルバラにある聖廟「イマーム・アリの滴(しずく)」で大きな事故が起き、多数の死傷者が出た。サナテレビは事故を取材して、イスラム政治勢力による聖廟を使った利権あさりの実態を明らかにした。

 事故は日本でも少し報道された。聖廟の一部とされる岩山が崩壊し、子どもを含む8人が死亡、がれきの下から3人が救出された。

 この聖廟の名は、イスラムの聖人イマーム・アリが困っている人びとに水を分け与えた故事にちなんでつけられた。内部の地面から水が湧き出ていたという。

 ところが、市民は「聖職者たちは、イスラムの歴史的人物の聖廟を新たに建設することで、元々あった資産を横領した」と告発する。岩山の崩落で露見したのだが、この偽造聖廟では、実際は外からパイプを引き込みポンプを使って地面から水が湧くよう演出していた。信者から集めた寄付金によって偽物の聖廟を作って人びとを集め、一方で元の聖廟は聖職者の財産として盗み取っていた。

「聖職者のビジネス」

 背景には、医療や福祉制度が破壊され病気の治療すらままならない中、神にすがろうという人も多い事情がある。宗教は精神的安らぎを得る場とされてきた。

 宗派勢力はそうした実態につけこんで、聖廟を利権の舞台に変えてしまった。レポーターはこのやり口を「聖職者にとって有益なビジネスだ」と批判する。

 さらに衝撃的な事実が暴露される。5か月前、地質学の専門家が、事故の原因となった岩の塊がすぐ崩壊するので補強工事をしなければならないと指摘していた。ところが当局はこの警告を無視して放置していたのだ。今回の痛ましい事故は人災だったのである。

 サナテレビは、人命軽視、人権無視の利権と腐敗社会を変え、政教分離の民主主義と平等に貫かれた社会を作ろうと訴えている。

(イラク平和テレビ局in Japan代表・森文洋)

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