2022年10月28日 1745号

【読書室/「黒い雨」訴訟/小山美砂著 集英社新書 960円(税込1056円)/終わらぬ放射能被害者の闘い】

 2021年7月広島高裁で「黒い雨被爆者」を被爆者から排除する国の基準は誤りとする判決が出された。「黒い雨」とは原爆投下時、広範囲に降下した放射性降下物の総称である。

 政府は、援護の対象となる被爆者の認定の条件を(1)爆心地から一定範囲にいた直接被爆者(2)原爆投下直後に被災者の救護などで被爆地域に入った入市被爆者(3)その他、原爆の放射能の影響を受ける事情の下にあった者(4)胎内被爆者の4点としてきた。直接被爆の範囲外であった「黒い雨被爆者」は(3)の条件を理由に被爆者認定と援護を求め続けた。

 政府は要求を受け、「黒い雨」の降下量が多いとされた「大雨」地域」に限って認定範囲を拡大した。「黒い雨」地域すべての認定を求める住民と政府の対立は続いていた。今回の裁判はその決着をつけた。

 政府は、「大雨」地域と同程度の高濃度の残留放射能が「小雨」地域の土壌でも測定されていた資料を意図的に隠蔽していた。裁判所は、政府資料のページの欠落からそのことを見い出したのだ。

 また、体内に取り込まれた放射性物質は微量でも人体に長期にわたって影響を及ぼす「内部被曝」について、政府は一貫して「科学的根拠がない」と主張してきた。しかし裁判所は国の主張を退けた。当時、低支持率にあえいでいた菅首相は「容認できない判決内容」としながら、「黒い雨被爆者」に手帳交付を認める方針に転換した。

 裁判で浮き彫りになったのは、政府の棄民政策である。そのことは福島原発事故の放射能健康被害を認めない政策に通じている。政府と放射能被害者との闘いは終わっていない。(N)
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