2022年12月02日 1750号

【米中間選挙にみる変革への力/議席増やし 住民投票でも大きな成果/“DSAのキャンペーンは全米で勝利した”】

 マスコミが「異例」と伝えた米国中間選挙(11/8投票)。上院(定数100改選35)では民主党が、下院(定数435全議席改選)では共和党が多数派となった。選挙結果を議席数だけで見ることはできない。民主党にせよ共和党にせよ、政党の指導部・主流派はグローバル資本の利益を代弁する立場であり、大きな違いはないからだ。そんな中で米国市民はどんな政治選択をしたのか。

「異例」と言われる選挙結果

 選挙結果はいまだ未確定だが、上院は、12月6日の南部ジョージア州での決選投票を残し、50議席を確保した民主党が多数派を維持した(採決時に賛否同数の場合、上院議長民主党ハリス副大統領が決定票を持つ)。下院では、11月16日に共和党が過半数の218議席を確保し、多数派となった(11/20現在残り5議席)。



 中間選挙は大統領任期の折り返し点で、政権前半の評価が反映する。バイデン大統領の支持率は30%台にとどまっており、共和党の大勝が予想されていた。ところが、バイデン批判票は共和党に向かうことはなく、「異例」の結果となった。

 なぜ共和党は勝利できなかったのか。トランプ前大統領への警戒感があったからだ。この2年間、トランプは「バイデンは正当に選ばれた大統領ではない」と選挙不正にポイントをおいてバイデン政権、民主党批判をしてきた。だが、共和党「選挙否定派」候補は接戦区で7割が落選しているという(11/17日経)。熱狂的トランプ支持者は限られているということだ。

 中間選挙の投票率は大統領選挙に比べ、大きく低下する傾向にあった。だが今回は約50%、前回の2018年同様高い投票率となった。郵便投票や期日前投票の利用者は過去最多の4590万人を超える(11/10読売)。この関心の高さは、トランプ流の民主主義破壊に対する危機感とともに、生活破壊に対する市民の政治変革を求める怒りの表明なのだ。

若者が投じた「賛成票」

 注目すべきは若者層(18歳〜29歳)の投票率だ。タフツ大学の調査センターによれば、過去30年間の中間選挙の中で最高であった前回の31%に次ぐ27%を記録した。出口調査では、若者票は下院では63%対25%で民主党に集まった。上院でも同じく、6割から7割の若者が民主党候補に投票した。大学がある都市では「大学生が投票所に押し寄せ、何時間も並んで票を投じた」(11/15経済誌フォーブス)。

 若者は民主党の何を支持したのか。一つには「学生ローンの帳消し」がある。バイデン政権は8月、連邦政府への学生ローン1人最大1万jの債務免除を発表した。卒業時平均2万5千jのローンを抱える学生にとって、充分とは言えないが、ローン利用学生4300万人のうち1600万人が完全帳消しになるという(9/26議会予算局発表)。

 それ以上に大きな焦点になったのは人工妊娠中絶問題だった。連邦最高裁が6月「憲法で保障された権利」との判決を覆した結果、保守派の州では「中絶禁止」の動きが続いた。出口調査では「インフレ」に次ぐ関心の高さだった。「他の権利も同じことになる」と危機感を抱いた学生は投票所に向かった(11/10BBC)。権利を守るために、共和党を勝たせてはならない動きとなった。

 銃規制問題も重要な争点となった。5月、テキサス州の小学校で児童19人と教員2人が犠牲となった事件後、トランプは「学生を守るために教師に銃を」と発言し、批判を浴びた。トランプの豪邸があるフロリダ州。10区で25歳のマックスウェル・フロストが下院議員に当選した。彼は銃規制を訴える「March For Our Lives」の活動家だった。

 アフロ・キューバ系のフロストは「銃に頼るのは貧困が原因」と医療ケアの拡大、住宅の低価格化、気候変動への対策などを掲げた。「若者は反対ではなく、賛成票を投じるものを求めている」と語っている(10/21ハフポスト)。


左派躍進を支えるDSA

 バイデン政権が若者層の票を獲得し辛うじて踏みとどまったのは、左派の政策を部分的にも取り入れてきたからだ。民主党主流派は「左派の過激な政策では勝利できない」と批判してきたが、左派議員の拡大は何よりの反論となっている。

 いまや民主党左派を象徴するDSA(アメリカ民主主義的社会主義者)のアレクサンドリア・オカシオコルテス、ラシダ・タリーブらと、イルハン・オマル、アヤンナ・プレスリーなどの議員団=「スクワッド」(軍隊用語の「分隊」から転じ、いつも一緒にいる仲間の意)に、最年少下院議員フロストなどが加わり、左翼ブロックは12人に拡大した(11/9ジャコバン誌)。



 選挙と同時に行われた住民投票でも、左派の政策が前進している。

 サウスダコタ州では低所得者を対象に公的な医療保険の適用対象を拡大する州法改正が56%の賛成で可決した。ネブラスカ州では現在時給9j(約1300円)の最低賃金を23年には10・5j(約1500円)に、26年までに15j(約2100円)にすることが58%で可決。イリノイ州でも、労働者に賃金や労働条件などで団体交渉する権利や組合加入の権利を保障することが58%で可決。ニューメキシコ州では公教育への予算増額が採択された。

 DSAはケンタッキー州、モンタナ州で妊娠中絶の権利を奪う法改正を阻止する運動をけん引した。ワシントンDCではチップを受けとる労働者の最低賃金を引き上げる闘いをリードし、勝利した。住宅問題でも多くの成果を上げた。「DSAが推薦するキャンペーンは全米で大勝利した」(11/9DSAウェブサイト)。

 マスコミは中間選挙の結果をバイデン政権の低支持率を生かせなかった「共和党の敗北」と描いているが、社会主義的変革をもとめる市民の闘いが着実に前進していることを示している。

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 ウクライナ軍事支援を批判してきた共和党が予算決定権を持つ下院を制したことを歓迎する声がある。だが、「ウクライナ支援を白紙小切手では出さない」(共和党マッカ―シー下院院内総務)というだけで、軍事支援をやめるわけではない。ウクライナ戦争で米軍需産業は大儲けをしている。ロシアへの経済制裁により、米石油資本は欧州への販路を広げ、価格高騰の恩恵まで受けている。共和党も民主党同様、こうした軍需産業や石油資本がスポンサーになっているのだ。

 青天井の軍事支出が医療や教育など市民サービスを低下させることは間違いない。軍事費削減、生活防衛の闘いは、反戦平和の闘い同様、国際的な共通課題となっている。
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