2022年12月02日 1750号

【未来への責任(362) 今 不法に向き合い謝罪果たす時】

 11月13日、プノンペンで岸田文雄首相と尹錫悦(ユンソンニョル)大統領は会談を行った。2019年12月、中国成都での日韓首脳会談以来3年ぶりのことであった。

 この会談で両首脳は、「懸案の早期解決を図ることで改めて一致した」。懸案とは強制動員問題のことで、具体的解決案までは示されなかった。その後、韓国大統領室は日韓首脳会談についてのブリーフィングで「解決策が一つから二つに絞られている」と説明した(11/16)。強制動員問題をどう解決していくかについて日韓間で協議は煮詰まりつつあるのであろう。

 この問題を解決していく上での“難関”は、韓国大法院が強制動員被害者の慰謝料請求権を認め被告日本企業に賠償を命じたことに対し、日本政府が1965年日韓請求権協定で解決済みと応酬していることだ。

 請求権協定で個人の請求権を消滅させられなかったことは、日本政府自身が認めている。65年協定で「完全かつ最終的に解決」とはならなかった。そもそも原爆被爆者、サハリン残留者、日本軍「慰安婦」等が問題とされなかったことは日本政府の対応を見るならば明らかだ。また、その後具体的な強制動員訴訟で、被告企業が被害者側の請求を実質的に認め、和解に応じた例も3件あるのだ。

 それでも日本政府は大法院判決が履行されることを座視しないという態度をとり続けている。

 こうした中で生み出された「解決案」が、差し押さえた日本企業の資産「現金化」を回避し、「日帝強制動員被害者支援財団」(以下、財団)が被告企業に代わって原告に賠償金を支払うという方式だ。「併存的債務引受」という。この方式は、債務者=被告日本企業と引受人=財団との合意で契約が成立、効力を発生する。この契約を交わすことは被告企業が大法院判決を認めることと同義である。被害者側がそう解釈するならば、財団が支払うお金を受け取るのではないか。韓国政府はそう考えて、この案を有力な解決案として日本政府に提案しているようだ。

 ただ、被害当事者が財団から支払われるお金を賠償金とみなすか、という問題がある。また、原告代理人(林宰成〈イムジェソン〉弁護士)は「被告企業の謝罪と、財団への出資」が案を受け入れる「マジノ線(最低ライン)」であると言っている。

 この線で「決着」するかも知れない。しかし、謝罪も賠償金支払いも被告企業が免れて、それで解決するということはあり得ないのだ。

 こうして被告企業、日本政府は植民地支配下で行った不法な強制動員にどう向き合うのか、という課題が突きつけられる。

 65年日韓基本条約、請求権協定では日本は植民地支配、強制動員について謝罪しなかった。それこそを今果たす時だ。

(強制連行・企業責任追及裁判全国ネットワーク 矢野秀喜)

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