2022年12月02日 1750号

【統一教会汚染にだんまりの政府/「被害者救済」も口先だけ/安倍元首相の責任追及が必要】

 統一教会(現・世界平和統一家庭連合)の被害者を救済する法案の行方が今国会の焦点となっている。一方で、教団の政界工作の全容解明が置き去りにされている観は否めない。なぜ自民党は弱者を食いものにするカルト教団とズブズブの関係を築くに至ったのか。キーマンは安倍晋三元首相その人だ。

救済新法への疑問

 政府は11月18日、統一教会問題の被害者救済に向けた新法の概要を提示した。新法は宗教法人だけでなく、個人から法人・団体への寄付全般を規制の対象とする。霊感等で個人を困惑させて寄付を勧誘することや、借金や住宅などの処分による寄付の要求を禁じた。

 寄付をした本人が求めていない場合でも、子どもや配偶者が本来受け取れた生活費等の範囲内で取り消し権を行使できるとした。禁止行為をくり返し行うおそれが著しい法人等に対しては、担当官庁が停止勧告や措置命令を行う。それでも従わない場合は刑事罰を適用するとした。

 自民党の茂木敏充幹事長は「各党の主張も可能なものは取り入れられている」と強調する。しかし、野党が求める「マインドコントロール」の定義は見送られた。寄付金額の上限規制も設けていない。

 このため、法規制を求めてきた被害者や弁護士からは実効性を疑問視する声が上がっている。「全国霊感商法対策弁護士連絡会」代表世話人の山口広弁護士は「極めて不十分な内容でがっかりしている。私たちがこれまで接してきた被害者の救済や被害防止には、ほとんど役に立たない」と言い切る(11/19毎日)。

 山口弁護士が特に批判するのは、「不利益を回避するためには寄付をすることが必要不可欠だと告げること」が禁止行為にあたる要件とされた点だ。「勧誘する側が『必要不可欠』などと言うわけがない。言われても立証はほぼ不可能」

 また、元信者の男性は給料の大半を教団に吸い上げられていた自身の経験から、寄付の上限規制は絶対に必要だと話す。

反省なき安倍派

 このように、政府が示した被害者救済法案の内容は、統一教会に配慮したとしか思えないシロモノだった。これは予想された事態と言える。なぜなら岸田文雄首相の指示を受け、法案提出に向けた党内調整を担ったのは、あの萩生田光一政調会長だったからだ。

 萩生田と言えば、自身の選挙区(八王子市)の教団施設を頻繁に訪問するなど、統一教会との関係が特に深い政治家である。「一緒に日本を神様の国にしましょう」と信者に呼びかけたという証言もある。

 そうした統一教会べったり議員の親玉格を岸田首相は救済法の策定にしれっと関わらせた。「関係を断ち切る」や「反省」が口先だけの証拠である。実際、教団と自民党の癒着問題については、真相究明を一切口にしなくなった。

 統一教会の政界工作は自民党、特に安倍派に食い込むかたちで行われてきた。萩生田がそうだし、先の参院選において教団の組織票を差配した疑いがある細田博之・衆院議長や、文科相時代に教団の名称変更を認めたとされる下村博文議員も安倍派の重鎮だ。

 そして、統一教会が最も頼りにしていた政治家が安倍晋三元首相だったことは言うまでもない。長年にわたる安倍派と教団の関係に光を当てない限り、政界工作の全容を解明することなどできないのである。

教祖自ら工作指令

 さて、統一教会の創始者である文鮮明(ムンソンミョン)が安倍派への浸透を自ら指示していたことが教団の内部文書で明らかになった。その文書とは韓国内で信者に説教した言葉を収録した「御言(みこと)選集」。ネットに流出した全文を毎日新聞が翻訳し、分析した(11月6日、7日付の紙面で特集記事)。

 たとえば、1989年7月に文鮮明はこう述べている。「国会議員の秘書を輩出する」「体制の形成を国会内を中心としてやる。そのような組織体制を整えなければならない」「そして、自民党の安倍派などを中心にして、…超党派的にそうした議員たちを結成し、その数を徐々に増やしていかないといけない」。国会議員との関係強化だけではなく、地方政界への浸透にも言及している。

 第一次安倍政権が発足した直後には、安倍の「秘書室長」と面会を重ねるよう、教団幹部と見られる信者に指示している。岸信介元首相、安倍晋太郎元外相と2代にわたる蜜月関係を築いてきた文鮮明にとって、安倍晋三はやはり特別な存在だったのだろう。

復権に利用した安倍

 安倍元首相の地元事務所(山口県)には教団幹部が出入りし、選挙戦になれば集会や電話作戦などに信者が動員されていた。ただし元首相自身が教団と急接近したのは、民主党政権で下野して以降のことだ。

 安倍事務所の内情を知る者はこう話す(10/8テレビ西日本)。「第二次安倍政権を誕生させるために統一教会の力が必要だった。晋三さんにしても自民党にしても、イデオロギーよりも、とにかく選挙に勝つことが必要だった」

 このように、選挙支援を通じて統一教会は自民党とのつながりを深めていった。政権奪還以降は、安倍派を筆頭に多くの議員が教団関連のイベントに公然と出席したり、祝電を送ったりするようになった。安倍自身も首相退任後にビデオメッセージを送った。政治家を広告塔として使おうという教団の思惑どおりに進んで動いたのである。

 彼ら統一教会汚染議員の存在が、教団に政治的なお墨付きを与え、資金獲得の活動を手助けしてきたことは言うまでもない。癒着の構造を明らかにし、責任の所在をはっきりさせなければ、被害者の救済も再発防止策も中途半端なもので終わってしまう。  (M)



MDSホームページに戻る   週刊MDSトップに戻る
Copyright Weekly MDS