2022年12月16日 1752号

【岸田「新しい資本主義―労働力移動」 失業あふれ低賃金は温存 最低賃金1500円 非正規賃上げは必須】

 11月10日、岸田内閣の第12回新しい資本主義実現会議は、企業間の「労働力移動の円滑化」について議論を開始した。来年6月までに指針をとりまとめるとしている。労働者にリスキリング(再技能習得)をさせ、成長性のある産業に移動させて、賃金を引き上げるという夢物語≠ナある。

異常な日本の低賃金

 日本の賃金の低さが国際的に指摘されるようになって久しい。バブル経済崩壊後、1990年代から日本の賃金水準は低迷が続く。欧米との差は広がり、シンガポール、韓国などにも追い抜かれている。2021年でOECD(経済協力開発機構)34か国中24位、1j145円換算なら28位だ。



 一般には、人手不足(労働需要が供給を超過)になれば、賃金が上がるとされる。ところが、賃上げが難しい産業分野では人手不足になっていても、賃金は上昇しない。実際、人手不足の医療、福祉、介護、保育などエッセンシャルワーカーと呼ばれる分野は公的サービスに近く、介護報酬などでサービスの価格が決められ、賃金に連動する。人手不足にもかかわらず、政府は報酬、賃金に反映させる手立てをとっていない。



 バブル経済崩壊後、新たな働き手として登場したのは、高齢者と女性だ。高齢者や女性は、終身雇用の正規労働者ではなく、非正規職で働かされる場合が多く、低賃金で働くことを余儀なくされている。賃上げしにくい分野で、人手不足でも今のところ低賃金でも労働者が充足されている以上、強い賃上げ圧力が働きにくい構造になっている。

 しかし、こうした状態は長くは続かない。今後、人材が枯渇し求職者が大きく減った時、いわゆる転換点≠迎えざるを得ない。転換点とは、発展途上国が工業化する過程で農村部から供給されていた低賃金労働者が得られなくなった時に一気に賃金が上昇することで、かつて日本の高度成長期でも起こった事態だ。

 近年、介護現場などで人手不足が続く中、低賃金でも働く人がいなくなりつつある。そのため、政府は外国人労働者を受け入れようとした。だが、職場環境や労働条件の改善が進まず、しかも円安の影響で賃金価値が急降下している状況では、多くの国の労働者から日本は見放されつつある。

正社員も賃金上昇せず

 この30年、正社員の数はほとんど変わっていない。働く人の総数は増えており、増えた部分のほとんどが非正規の労働者だ。資本は、好不況、業績の変動に対応する調整弁として非正規労働者の雇用を増減させて対応してきた。賃金が定期的に昇給しない非正規労働者が増えたことで、全体の平均賃金は下落した。

 正社員に関しても90年代以降、企業は社員の訓練投資を減らしている。金融危機以降、銀行融資から株式発行などの直接金融中心になり、外資ファンドなどの株主が短期的な業績向上を求めたため、成果が不確実でリターンに時間がかかる訓練投資はカットされた。正社員を訓練しスキルアップさせ賃金を引き上げるのが年功賃金制度だったが、訓練投資の減少とともに正社員の賃金上昇の度合も少なくなっている。

賃上げは緊急課題

 このような日本資本主義に「労働力移動」を持ち込めばどうなるか。失業者はあふれ、低賃金構造はそのまま、格差がますます拡大する一方だ。

 労働力移動の見本として、政府は北欧スウェーデンなどを想定する。しかし、「連帯賃金」という完全な同一労働同一賃金を社会的に確立し、失業保険・就職促進事業と手当が充実し、職を失うことへの恐怖感のないスウェーデンと日本ではそもそも出発点が違う。同一労働同一賃金、失業手当をはじめEUなどの水準にも全く達していない。

 まず、エッセンシャルワーカーの賃金、すべての非正規労働者の賃金を、少なくとも平均賃金に引き上げ、最低賃金1500円以上を実現することが緊急課題だ。さらに介護・保育など抜本的な人員増と再公営化、非正規職撤廃という根本的変革につなげる必要がある。
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