2022年12月16日 1752号

【自公、敵基地等攻撃能力保有で合意/憲法を踏みにじる大転換/「集団的自衛権」で先制攻撃も】

 相手国のミサイル発射拠点などを破壊する「反撃能力」(敵基地等攻撃能力)の保有を自民・公明両党が合意した。政府は、保有を明記した安保関連3文書を年内に閣議決定するとしている。憲法9条に制約された「専守防衛」の縛りをかなぐり捨て、本格的な戦争国家に踏み出すものだ。

基地だけに限らない

 法理的には自衛の範囲に含まれており可能だが、現実的な政策判断として保有しない――いわゆる敵基地攻撃について、歴代政府はこのような見解をとってきた。「平生から他国を攻撃するような、攻撃的な兵器を持っているということは、憲法の趣旨するところではない」とした国会答弁もある(1959年3月/伊能繁次郎防衛庁長官)。

 こうした見解を今回の自公合意は覆すものである。国際法違反の「先制攻撃」ではないと強調するために、「反撃能力」という呼び方を採用したが、「撃たれる前に撃つ」という作戦の性質上、先制攻撃との区別はきわめて難しい。

 実際、自公合意では、日本への武力攻撃がない段階でも、相手がミサイル発射に「着手」したと政府が認定すれば攻撃可能となっている。しかも「着手」の定義を示さず、「個別具体的に判断する」とした。「手の内を明かすことになる」(小野寺五典元防衛相)との理由からだ。

 攻撃対象の具体的例示もない。自民党の提言にあった「指揮統制機能等」を排除しないということだ。安倍晋三元首相のブレーンを務めた北岡伸一元東大教授は、4月に行われた安全保障シンポジウム(読売新聞社後援)の基調講演で次のように述べていた。いわく「対象を基地に限る必要はない。軍の中枢部や首脳の居場所を狙わないと反撃にならない」。

 日本で言えば、統合幕僚監部が設置される防衛省庁舎や首相官邸を攻撃対象にしなければ、「抑止力」として意味を持たないと言うのである。これが憲法9条が禁じた「武力による威嚇」でなくて何であろう。

日本すべてが標的に

 ロシアのウクライナ侵攻や朝鮮の相次ぐミサイル発射実験、そして中国の軍事的脅威が煽られる中、世論は「反撃能力」保有の容認に傾いている。共同通信の世論調査(11/26〜11/27実施)では、保有に「賛成」の回答が60・8%に達した(「反対」は35%)。

 これを追い風とみた岸田政権は、長射程ミサイルをはじめとする攻撃兵器の配備計画を矢継ぎ早にリークし、既成事実化を狙っている。米国製の巡航ミサイル「トマホーク」を最大500発購入、国産ミサイルの量産化(1000発以上配備)、攻撃目標を特定するための人工衛星システムの開発などなど。

 「反撃能力」の保有に賛成の意見が多いのは、「自衛のための手段」というイメージが強いからであろう。だが、政府の思惑はそうではない。日本に対して攻撃の意思が示されていない場合でも、「反撃」は可能だとしている。

 どういうことか。自公合意は集団的自衛権を発動しての行使も認めた。日本と密接な関係にある他国が攻撃され、日本の存立が脅かされる「存立危機事態」となれば、日本が「反撃」を行うというわけだ。想定される他国とはもちろん米国のことである。

 たとえば、米軍の艦艇に他国からミサイルが発射された場合、日本の自衛隊がその国の政府中枢や軍事施設を攻撃する―。日本を狙ったわけではない相手からすれば完全な先制攻撃だ。当然、日本領内に反撃してくるだろう。全面戦争に発展するおそれもある。

 毎日新聞の報道(11/25)によれば、政府は地上発射型の長射程ミサイルを3段階に分けて配備する検討に入ったとされる。最初は南西諸島(琉球弧)、次に富士山周辺、そして北海道だ。ミサイル発射拠点になるということは、相手の攻撃目標になることを意味する。日本全体が標的の島になってしまうのだ。

軍拡で生活圧迫

 岸田文雄首相は「反撃能力」の確保が「抑止力の向上」につながると主張する。「抑止」とは武力で脅して攻撃を思いとどまらせることだが、核兵器保有国に対して有効とは思えない。より強力な兵器が必要との議論が持ち上がり、やがて核武装論に行き着くことは目に見えている。

 財源の問題もある。政府は軍事費を今の2倍以上にしようとしているが、すべて増税で賄う場合、一人あたりの税負担は年間4万円も増える。それこそ人びとの生活を圧迫し、命を脅かす暴挙というほかない。

 東アジアの軍事的緊張を高め、生活苦にあえぐ人びとをさらに貧しくしてまで、ミサイルを大量購入するなんて馬鹿げている。絶対に許してはならない。(M)

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