2022年12月16日 1752号

【読書室/年収443万円 安すぎる国の絶望的な生活/小林美希著 講談社現代新書 880円(税込968円)/平均年収でも遠い「人並みの暮らし」】

 人並みの生活という言葉からイメージするのは「衣食住に困らない、そこそこ生きていける暮らし」である。この国の給与所得者の平均年収は443万円(平均年齢は46・9歳)。それだけあれば安心して暮らしていけるのだろうか。

 本書は、就職氷河期世代を中心とした人びとの生活実態に迫り、平均年収では“普通”の生活ができなくなくなった日本社会の現実を描き出している。

 都内に住む30代の女性は自治体の非正規職で、年収は348万円。夫の年収と合わせた世帯年収は約1千万円。十分な収入があるように見えるが、スーパーで最安値の買い物をする毎日。育児疲れでストレスがたまり、娘を蹴り飛ばしてしまったこともある。

 平均年収があっても、多くはギリギリの家計を強いられている。平均年収以下はもっとつらい。月収12万円の町工場で働いていたシングルマザーは、その暮らしぶりを「永遠のような絶望」と表現する。

 賃金と仕事量が見合わないと嘆く保育士(年収300万円)は政府の姿勢に憤る。「子育ての予算はなかなか増えないのに、防衛費はいとも簡単に増やすじゃないですか。…倍になって10兆円になるって、どういうことなんですか」

 本書が描き出したのは、「中間層」が崩壊した日本の現実だ。人件費の抑制という企業の論理を優先させ、労働法制の規制緩和を進めてきた政治が、生活不安ゆえに結婚や出産をためらう状況を作り出したのだ。

 自らも就職氷河期世代の著者は「不安定な非正規雇用をなくさなければならない」「原則、正社員にするような大胆な改革が必要だ」と訴えている。(O)
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