2022年12月23日 1753号

【「敵基地攻撃=自衛のため」という誤解/米中戦争に参戦する仕掛け/戦火に巻き込まれるのは市民】

 岸田内閣の支持率は相変わらず低いが、連中が狙う「反撃(敵基地等攻撃)能力の保有」には賛成する人が多い。「北朝鮮のミサイルから日本を守るため」というイメージが強いからであろう。しかし本命の使われ方は、米軍と一体となった対中国戦争にある。

始まりは安倍の嘘

 現在の「敵基地攻撃能力保有」論の言い出しっぺは、今は亡き安倍晋三元首相である。退任直前の2020年9月に発表した安全保障政策に関する談話の中で次のように述べていた。

 「北朝鮮は我が国を射程に収める弾道ミサイルを数百発保有しています。核兵器の小型化・弾頭化も実現しており、これらを弾道ミサイルに搭載して、我が国を攻撃する能力を既に保有しているとみられています。(中略)迎撃能力を向上させるだけで本当に国民の命と平和な暮らしを守り抜くことが出来るのか。そういった問題意識の下、抑止力を強化するため、ミサイル阻止に関する安全保障政策の新たな方針を検討してまいりました」

 要するに、日本に飛来するミサイルをすべて撃ち落とすことは困難であり、相手の基地を直接攻撃して発射を未然に阻止できるようにしなければならない、というわけだ。

 談話はその後「専守防衛の考え方は、いささかの変更もありません」と続く。あくまでも(個別的)自衛権の範囲内の話だという印象を世論に刷り込もうとしていたことがわかる。しかしそれは、例によって大ウソであった。

「せん滅」という脅し

 安倍は首相を辞めて身軽になった途端、本音を吹聴し始めた。たとえば、日本会議系の集会で行った記念講演(2021年11月)である。「よく『敵基地攻撃能力』という言葉が使われますが、この表現はあまり適切ではないのではないかと思います。敵基地だけに限定せず、『抑止力』として打撃力を持つということです」(『祖国と青年』2022年1月号)

 抑止力としての打撃力とは何か。安倍はこう説明する。「米国の場合は、ミサイル防衛によって米国本土は守るけれども、一方で反撃能力によって相手をせん滅します。この後者こそが抑止力なのです」。せん滅の意味は「残らず滅ぼすこと」である。政府や自民党が採用した「反撃能力」という呼称には、そういう含みがあるのだ。

 安倍ブレーンの北岡伸一・東大名誉教授に至っては「『敵基地攻撃能力』論は不毛」とまで言い切る。「今の基地は移動式でミサイルの発射場所は分からないために技術的に不可能」「対象を基地に限る必要はなく、軍の中枢部や首脳の居場所を狙わないと反撃にならない」(4/6読売)。

 下世話な言い方をすれば、「いつでも親分の首を取ったる」といった脅しが効くような強力な打撃力を持たなければ、相手はひるまず、抑止力として意味がないと言うのである。ここまでくると憲法9条が禁じた「武力による威嚇」以外の何ものでもない。

 政府は攻撃対象の具体的な例示をしていないが、自民党が4月にまとめた提言は「相手国の指揮統制機能等も含む」としている。相手国の政府機関を含む全域を「せん滅」攻撃の対象にするつもりなのだ。

台湾有事を想定

 前述の講演で、安倍は自分の政権時代に長射程ミサイルなど必要な軍備の増強に着手したと主張。「この能力を打撃力、反撃能力としても行使できるようにすること」が重要だと語った。そして「これは北朝鮮に対してだけではなく、南西沖についても応用できる」と力説した。

 南西諸島(琉球弧)に関連してミサイルを使うような事態、それは台湾有事をめぐる中国と米国の激突のことである。この戦争に自衛隊が参戦し、米軍と一体化して中国軍と戦う作戦計画がすでに策定されている。

 台湾をめぐって米・中の武力衝突が発生した場合、日本政府はそれを「わが国の存立が脅かされる明白な危険がある事態(存立危機事態)」と認定し、集団的自衛権を発動する。これにより自衛隊の武力行使、すなわち中国への武力攻撃が可能になる。

 政府は集団的自衛権を行使して敵基地等を攻撃することも有りとしている(今年5月に閣議決定された政府答弁書)。つまり日本が攻撃されていなくても、自衛隊は米軍を支援するために中国のミサイル発射拠点や政府中枢を攻撃することができるというわけだ。

 このように、岸田政権がもくろむ「反撃能力」の保有は「必要最小限度の自衛措置」(新たに策定される「国家防衛戦略」)などではない。憲法の根幹を破壊する暴挙だ。自衛隊を本格参戦させ、多くの人びとを戦火に巻き込む危険な政策なのである。   (M)

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