2023年01月13日 1755号
【軍事最優先予算を組み替えよ/でっちあげた「脅威」でミサイル爆買い/生活破壊で今市民の命が危ない】
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2023年度当初予算案114兆円超が示された。前年比6・3%増、過去最大を更新した。その中にあって軍事費は26・4%増、約6兆8000億円と突出している。5年間で43兆円の確保をもくろむ「防衛力抜本的強化『元年』予算」(防衛省)。問題満載の軍事予算の実態を見ておこう。
「無用の長物」
岸田文雄首相は「防衛力強化」とは「戦闘機やミサイルを購入するということだ」(12/16)と言い切った。当然「戦闘機やミサイル」の購入だけではないが、岸田の言葉はめざす軍備を象徴している。
「ミサイル」は、いわゆる「敵基地攻撃能力」の根幹となるスタンド・オフ・ミサイルの整備(7300億円)を意味する。「戦闘機」も敵のレーダーに見つかりにくいステルス性能を強化した新規16機の購入と既存27機の改良(合わせて3400億円)。敵国領空への侵入を想定しているといえる。「敵基地攻撃能力の保有」を端的に示したものだ。
ところが購入兵器には理屈に合わないものもある。たとえば、「即戦力」としている巡航ミサイル「トマホーク」だ。地形に合わせて飛行し、3000`bまで届く。27年度までに500発を購入する。
長射程ではあるが、トマホークの飛行速度は時速880`b。音速(標準大気で1225`b/時)に届かない亜音速ミサイルだ。最新鋭のブロック5を購入するというが、速度は変わらない。「中国からの弾道ミサイルは10数分前後で日本に到達するが、トマホークは北京まで2時間かかる」(12/19JBpress元陸自幹部学校戦略教官室副室長西村金一)と身内からも指摘されるように、その「有効性」には疑問符が付く。
兵器開発は極超音速巡航ミサイル(音速の5倍以上)に向かっている。「無用の長物」の爆買いの一例ではないかと疑われても仕方がない。
契約ベースは17兆円
軍事費の内訳で問題視されているのが、「爆買いのつけ」である後年度負担。ローン支払い額(「歳出化経費」と呼ばれる)は、毎年度、軍事費の4割を占めてきた。隊員の給与・退職金や食堂等の経費である「人件・糧食費」もほぼ4割。残る2割が兵器の調達・修理、燃料費、基地の維持費などになる。ローンの支払いがいかに大きな割合を占めているかがわかる。

今回の予算案ではどうなっているのか。予算額6・8兆円のうち2・7兆円(38・9%)がローン払い。次年度以降の支払額は10・7兆円にまでなる。それだけの兵器を買ってしまっているのだ。
その中には、米軍が廃棄する「ガラクタ」が含まれている(11/29デモクラシータイムス、軍事ジャーナリスト半田滋)。22年7月、米空軍が退役させると発表した陸上用大型無人偵察機グローバルホークブロック30。理由は「旧式の機体では中国の脅威に対応できない」からだという。これを航空自衛隊は3機導入するのだが、その額は当初510億円だったものが630億円に値上げされた。
この購入は米政府の武器輸出制度「有償軍事援助(FMS)」によっている。価格や納期など契約条件は米側が一方的に決める。会計検査院もしばしば問題を指摘してきた。このFMSによる兵器調達額は23年度1・5兆円と急増している。
問題のグローバルホークは22年3月、航空自衛隊三沢基地(青森)に最初の1機が到着したが、所属部隊すら決まっていなかった。航空自衛隊は12月になって、この無人機のための「偵察航空隊」を編成。自衛隊初の無人機専門部隊(約130人)新設への口実に役立てた。


脅威は日本
急拡大する軍事費には、説明がつかない兵器調達がいくつも紛れ込んでいる。これを見れば「抜本的防衛力強化」が必要だという「戦後最も厳しく複雑な安全保障環境」(国家安全保障戦略)の実態も疑わなければならない。
中国は日本を攻めるのか。その理由は何もない。政府はウクライナ戦争を引き合いにして、「台湾有事は日本の有事」とあおるが、台湾が独立宣言しない限り中国が台湾に武力行使をする理屈はない。
台湾の市民はどう考えているのか。中国との関係について「現状維持」を望む割合は86・1%、「できるだけ早く独立を宣言したい」は6・4%に過ぎない(22年8月20日フォーカス台湾)。22年11月の地方選挙結果も野党国民党(親中国派)が勝利した。中国からの独立の動きはない。
朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)のミサイル開発はどうか。朝鮮の核・ミサイルは米軍に対抗するものだ。日本に向かって先制攻撃する必要性はまったくない。資金難の朝鮮に旧統一教会が日本で集めた4500億円が送られ、開発費に回っていたという(『文藝春秋』23年1月号)。事実であれば、朝鮮のミサイル発射を「国難」と利用した安倍自民党政権を支えたとも言える。
軍事大国をめざす日本の姿は、逆に他国に脅威を与える。中国は日本の軍事3文書改定に対し、欧州で軍事緊張を高めたNATO(北大西洋条約機構)を引き合いに、「日本は『アジア太平洋のNATO化』の推進者の役割を積極的に務めている」と指摘している(12/26産経)。
沖縄・琉球弧へのミサイル配備・基地建設が中国を刺激していることは間違いない。今回、辺野古新基地建設費は1・8倍、651億円が計上された。埋め立て工事の設計変更さえできないにもかかわらずだ。鹿児島県馬毛島の基地整備には546億円(契約ベース3030億円)。与那国ではミサイル部隊のための用地取得(18万平方b、取得額未公表)。この他約230億円が琉球弧の基地強化のために予算化されている。
でっちあげた「脅威」が軍拡競争によって、リアルな「脅威」へと変わってしまう。軍備削減、縮小こそが外交環境を整えるのだ。自民党政権が作り上げた「最も厳しい安保環境」を現実のものにさせてはならない。
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通常国会が始まる。「ミサイルか暮らしか」―究極の選択が議論される。問われるのは、市民の生活を守る施策を差し置いて、なぜ「防衛力の抜本的強化」が必要なのかということだ。「国民の生命、財産を守る」と軍備増強に走るその足もとで、水道料金が払えず給水停止、住む家を失う市民がいる。東京都では21年の給水停止は10万5千件。22年は4月からの半年間で9万件にものぼる。
「命の水」さえ絶たれる状況で、ミサイル爆買い。これを許せば、軍事最優先政治がまかり通り、生活破壊は一層深刻化する。軍事費削減、社会保障費等大幅増額の大胆な予算組み替えを行なわせる必要がある。 |
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