2023年03月10日 1763号
【世代間対立を煽る成田悠輔/「高齢者は集団自決すべき」/貧困の原因を分断で隠す】
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「高齢者は老害化する前に集団自決、集団切腹みたいなことをすればいい」。経済学者の成田悠輔の発言が世界中で批判されている。これはただの「ウケ狙い」ではなく、支配層に都合のいいイデオロギーの刷り込みと見るべきだ。世代間対立を煽ることで、貧困化の原因を覆い隠そうとしているのである。
世界に広まり炎上
成田悠輔は1985年生まれの経済学者。日本のメディアに「若き天才」ともてはやされ、テレビやネット番組に多数出演していた。彼の思想の根本には新自由主義がある。たとえば、次の発言だ。
「弱者と呼ばれるような人たちを救うためにこそ、稼ぎまくって納税しまくる人を作り出し、一時的に格差を作り出して"富を蓄積できる人"を増やすことが大事」「中途半端に弱者を助けようとして格差を強調しすぎると、社会全体が貧しくなる」(TBS系「日曜日の初耳学」/2022年4月17日放送回)
その人気タレント学者が大炎上している。問題になったのは、2021年12月配信の『アベマ・プライム』での発言だ。高齢化社会の解決策として「結局、高齢者の集団自決、集団切腹みたいなのしかないんじゃないか。やっぱり人間は引き際が重要だと思う。別に物理的な切腹ではなくて、社会的な切腹でもいい」などと語ったのである。
「高齢者は集団自決すべき」は成田の持論であり、同種の発言を何度もくり返している。「安楽死の解禁・強制」を口にしたこともある。一連の言動を「世代交代を比喩的に表現したもの」だとして擁護する向きもあるが、それは違う。成田自身が「メタファー(暗喩)ではない」とはっきり述べているのだ。
成田が出演したネット番組の討論企画でこんな一幕があった。ファンだと言う少年が彼に質問を投げかけた。「成田さんはよく『老人は自害しろ』と言ってるじゃないですか。老人は実際退散した方がいいと思うんですよ、日本から。老人が自動でいなくなるシステムをつくるとしたらどうやってつくりますか?」
成田は「答えるのが難しい問題」と断りつつ、こう言った。「もし君が良いことだと思うなら、そういう社会を目指して一生懸命頑張ればいい」。これが大量虐殺の正当化でなくて何であろう。ナチス・ドイツの蛮行を思わせる憎悪発言として、世界中で非難されるのは当たり前だ。
ナチの蛮行と同じ
ナチス政権は精神障がい者や知的障がい者を「生きるに値しない命」と決めつけ、抹殺する作戦を実行した。戦争遂行にあたり、国家の経済的負担を減らそうとしたのである。大勢の人間を効率的に殺害するために「ガス室」を考案し、これがユダヤ人の絶滅政策でも使われた。
成田発言は「国家や社会のお荷物になる者は死ぬことで貢献せよ」というナチスの発想そのものである。「集団自決」という言葉を使っているので、大日本帝国的と言うこともできる。
軍事用語としての「集団自決」には、戦闘員の邪魔にならないように「崇高な犠牲的精神により自らの命を絶つ」(防衛庁編纂の沖縄戦史)という意味がある。実際には、軍隊によって強制された集団死なのだが、それを「軍隊への自発的な協力行為」にすり替えるために使われてきた。
そうした経緯を成田がどこまで意識しているのか不明だが、薄ら笑いを浮かべて「集団自決」の“活用”を説く態度は、沖縄戦の被害者に対する冒とく以外の何ものでもない。
高齢者叩く風潮
成田発言への批判が高まったのは、2月12日付の米紙『ニューヨーク・タイムズ』が大きく報道して以降のこと。それまで日本のメディアはほとんど話題にしてこなかった。
くだんのネット番組でも、成田発言にスタジオ出演者は「爆笑」していた。「表現は乱暴だが、問題の本質をついた発言」として受け止められていたのである。そして今も、ネット掲示板やSNSには成田擁護の意見が絶えない。
成田は近年勢いを増している高齢者叩きの煽動者として人気を得ていた。前述の『ニューヨーク・タイムズ』が「彼の極端な主張は、高齢化による経済の停滞に不満を持つ何十万もの若者のフォロワーを獲得している」と指摘するとおりである。政治の世界でも「世代間格差」を強調して若者の支持を得ようとする輩が多い(たとえば、日本維新の会の音喜多駿参院議員)。
その頂点に立つのが成田との共演も多いひろゆきで、先日もこんなツイートをしていた。「日本は搾取される若者たちと、払った以上の額の年金を受け取る高齢者に分断されています。(中略)若者搾取を減らさないと社会が継続不能になりますよ」(2/23)
「貧しい若者」と「恵まれた高齢者」を対比させる、典型的な高齢者叩きの言説だ。もちろん、これはインチキで、日本の高齢者の貧困率は年々上昇している。ひろゆきらが描く高齢者像は、一握りの富裕層の生活を全体にあてはめた幻影にすぎない。
そもそも、低賃金・不安定労働によって若者を搾取しているのは資本家階級だ。重税を課しているのは政府である。ひろゆきは成田同様、「世代間対立」を煽動し「階級対立」を隠蔽する役割をはたしている。なるほど御用メディアが好んで起用するわけだ。
民衆の権利を守る
フランスでは、政府の年金支給開始年齢引き上げ案に対し、大規模な反対運動が起きている。街頭デモには若者たちを含む幅広い世代が参加。年金制度の改悪を民衆が獲得してきた権利の侵害だと訴えているという(2/19琉球新報)。こうした視点に学び、社会に張り巡らされた「分断」の罠を打ち破りたい。 (M)

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