2023年03月31日 1766号
【維新府政15年 大阪は前進したか/コロナ対策せず死者ワースト記録/「借金返済」でも成長はせず】
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大阪府知事・大阪市長選挙をはじめ地方議会選挙に臨む大阪維新の会(代表吉村洋文大阪府知事)は「身を切る改革で赤字財政を立て直した」と訴えている。維新「改革」で、大阪の財政は立て直されたかのように市民に思い込ませたいのだろうが、この宣伝にだまされてはいけない。開発利権にまみれた維新による大阪万博、IRカジノへの税金投入は新たな財政破綻を予告するものだ。
吉村大阪府知事は「5200億円の穴埋めが完了する」とアピール、「維新が改革で生み出した財源。増税もサービス低下も行わないで教育無償化が実現できる」と力説している。
「5200億円の穴埋め」とは、20年ほど前の太田房江知事時代に借金の返済用に積み立てていた貯金(減債基金)を財源不足を補うために数年間にわたり取り崩した額を元に戻したことを言っているのだが、余裕ができたから貯金できたのか、出費を削って貯金したのかをよく見なければならない。
大阪府の財政を見れば、決して余裕ができたわけではない。むしろ大阪の経済力は低下している。つまり、貯金に回した金額は必要な支出を抑えて、無理やり生み出したものだった。
特に問題なのは、その実態をごまかすために、「太田時代の借金を橋下、松井、吉村の維新府政15年間の改革で返済した」と言っていることだ。あたかも維新が大阪経済を成長させ、増収になったかのように思わせる効果を狙っているのだ。

府民所得は増えず
維新府政で税収は増えているのか。自治体の財政力をはかる「財政力指数」をもとに検証してみよう。この指数は、自治体を運営するのに必要な経費に対し、自前の収入がどれくらいあるのかの割合を表している。1以上なら、経費を上回る収入があり、財政的な余裕があるといえる。現在、1以上は東京都だけ。全道府県の平均は0・5前後。必要経費の半分程度しか、自前の収入はないことになる。
2020年度、大阪府は0・79で、愛知0・91、神奈川0・89に次ぎ、千葉0・78、埼玉0・77、静岡0・73と続く。橋下知事誕生の08年度0・83あった指数は、一時0・72まで下がったこともある(図1)。
図1 大阪府の財政力指数の推移(上)、都道府県の財政指数(下)

県民所得はどうか。「成長」していれば、府民の所得は上がっていくはずだ。財政力指数が近い先の府県を比較すると、人口1人当たりの所得は、愛知が抜き出ているが、所得上昇の率は他の5府県ほぼ同じ(図2)。維新府政の「改革効果」は見られない。「1人当たり県民所得の推移」(内閣府)によれば、08年、全都道府県の中で5位の順位にいた大阪は維新府政10年経って16位に下がった(図3)。他の自治体に比べ「大阪が成長した」とは、とても言えたものではない。
図2 県民所得府県比較(人口1人あたり)

人件費削減が要因
維新は基金への積立金をどのように捻出したのか。その一つがいわゆる「身を切る改革」の名で進めた人件費削減。16年から20年にかけて約2000億円減らしている。20年度の人口1人当たりの人件費は、財政力指数0・5以上の21道府県中19番目の低さで、最高額の6割弱、平均値から9557円も少ない(図4)。
図4 大阪府 人件費の推移

一般職員数は、ここ10年で大阪府は人口1人当たり26人も減らしている。神奈川の15%を上回る16%の減員だ。他の府県の職員減は4・4%〜10・8%にとどまっている(図5)。
図5 人口1人当たり一般職員数の推移

公務員削減は、新自由主義政策を進めた小泉政権が「行政改革推進法」を成立させた後、本格化した。率先してこの実行役になったのが維新であった。この公務員削減の悪影響は、災害対応やコロナ対応など緊急時に特に顕著に表れる。
財政力指数が近い府県の中で衛生関係職員の削減が大きい大阪(図6)は、コロナ感染拡大時に保健師不足が対応の遅れを招き、全国最悪の死亡者を出してしまった。
図6 人口一人当たりの衛生関連職員数

つまり、必要な人件費などを削って生み出した財源が、貯金の積み立てに回されたのだ。コロナ休業に伴う給付や医療態勢支援など自治体の支援策が求められた20年、21年、22年も、それ以前の年度より、より多くの額が「基金の穴埋め」に使われている。
開発行政で借金想定
維新はなぜこれほどまでに、基金回復にこだわるのか。「実績アピール」だけではない。減債基金はいわば借金の担保なのだ。現在大阪府の府債残高は、国が交付金で補填(ほてん)をすることになっている臨時財政対策債を含めて6兆円を超えている。太田時代の府債額約4・4兆円を上回っている。維新府政はさらに借金を拡大するつもりなのだろう。
維新の会は「万博は成長の起爆剤」と夢洲(ゆめしま)開発にのめりこんでいる。ところが、万博開催やIRカジノ誘致には、会場となる夢洲へのアクセス整備や地盤改良・有害物質の処理など青天井の借金が必要となる。会場整備の主体は大阪市とは言え、府が知らぬ顔はできない。既に数十億円の増額となった万博「大阪パビリオン」建設費は行政負担分を府・市が折半する。今後、どれほど税を投入する気なのか、明らかにされていない。
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「大阪をもっと前に進めたい」と吉村知事は公式サイトのトップに掲げる。しかし、「前進」は虚像であり、府民の生活は悪化してきた。前回選挙の維新のキャッチコピー「成長を止めるな」と同様、有権者に幻想をすりこんでいくイメージ戦略をいつまでも繰り返させてはならない。
なおMDS理論政策委員会編『これが維新の会の正体だ』(22年4月発行)は、「経常収支比率」を手がかりに大阪府財政を分析している。参考にされたい。 |
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