2023年09月08日 1787号

【「戦争を繰り返さない」は口先だけ/岸田首相の本心も「戦う覚悟」/麻生発言は政府が言わせた】

 「戦争の惨禍を二度と繰り返さない。この決然たる誓いを今後も貫いていく」。8月15日の全国戦没者追悼式で岸田文雄首相はこう語った。一方、自民党の麻生太郎副総裁は「台湾有事」を念頭に「戦う覚悟」が必要だと発言した。これは失言・放言のたぐいではない。岸田政権が言わせたものなのだ。

大不評の岸田式辞

 今年の全国戦没者追悼式で岸田首相が述べた式辞に対し、手抜きとの批判が高まっている。使いまわしの文章を棒読みしているだけで、気持ちがこもっていないというのである。実際、660字余りの式辞原稿を昨年と比較すると、約9割が一言一句同じだった。

 「あいさつ文が定型化するのはやむをえない」との意見もあるが、岸田首相の場合は独自色を出そうとした形跡もない。「コピペ文章を読むだけの簡単なお仕事か。自分で考えて書いて読めよ」「チャットGPTのほうがまし」と批判されても仕方あるまい。

 ただし、岸田式辞の悪質さは手抜きだけにあるのではない。国として戦没者を追悼する式典で、時の首相が平気で嘘を語ったことが問題なのである。

 「戦後、わが国は一貫して、平和国家として、その歩みを進めてまいりました。(中略)戦争の惨禍を二度と繰り返さない。この決然たる誓いを今後も貫いてまいります」と首相は言った。だが、実際に政府が行っているのは、憲法9条を空文化する大軍拡である。

 具体的には、中国を仮想敵国とした日・米・韓の軍事同盟強化を急いでいる。8月19日に3か国首脳が合意した「キャンプデービッド原則」がまさにそうだ。そして、耳を疑うような発言が首相経験者からとびだした。自民党の麻生太郎副総裁が台湾で語った「戦う覚悟」である(8/8)。

政府公認の戦争挑発

 台湾を訪問した麻生副総裁は、蔡英文総統も出席した講演会の場でこう語った。「日本、台湾、米国をはじめとした有志の国に、非常に強い抑止力を機能させる覚悟が求められている。戦う覚悟だ」「金をかけて防衛力を持っているだけではだめ。いざとなったら使う。台湾海峡の安定のために使う明確な意思を相手に伝えて、それが抑止力になる」

 中国が台湾に侵攻する事態、すなわち「台湾有事」を想定しての発言である。軍事力を行使して断固阻止する姿勢を日本も示すべきだというのだ。日本政府が口だけは堅持するとしている「専守防衛」のラインを完全に超えている。

 放言癖がある麻生の言葉だけに好き勝手な暴走と受け止める向きもあるが、内実は異なる。政府関係者によると、首相官邸や外務省、国家安全保障局と内容を入念に調整したうえでの発言だという(8/10毎日)。

 台湾訪問に同行した鈴木馨祐・元外務副大臣も「当然、これは政府の内部も含めて調整をした結果のことですから。少なくともこのラインというのは『日本政府としてのライン』」と述べている。「岸田総理と極めて密に連携をした。今回もいろいろ訪問前にやっている」というわけだ。

 つまり、戦争挑発に等しい麻生発言は岸田首相が承認した日本政府としてのメッセージなのだ。これでよく「戦争の惨禍を二度と繰り返さない」などと言えるものだ。国内外の戦争被害者を愚弄している。

維新馬場が酷すぎる

 「終戦の日」のメッセージと言えば、日本維新の会のそれも酷かった(馬場伸幸代表名義)。大げさではなく、ネトウヨの書き込みレベルの内容なのだ。

 いわく「日本国憲法は施行から76年を経ましたが、事実上の丸腰のまま戦争放棄、平和主義を独善的に唱えているだけでは、他国の侵攻への野心を打ち砕けない時代に入りました。日本は自国の平和を享受するだけでなく、地域および世界の平和と安定に積極的に寄与すべきです」。

 さすがは「第2自民党」を自負するだけのことはある。政権党が言えない本音を「ぶっちゃける」ことが維新の役割らしい。

   *  *  *

 台湾をめぐって中国と武力衝突する事態になれば、真っ先に戦場になるのは日米の軍事基地が集中する琉球弧の島々だ。「沖縄を再び戦場にさせない県民の会」は麻生発言への抗議集会を開催(8/13)。共同代表で前南城市長の瑞慶覧長敏さんは「政治に求められているのは対話であり、平和力だ」と強調した。

 岸田首相は全国戦没者追悼式の式辞で「歴史の教訓を深く胸に刻み」と語った。「米中衝突は不可避」と煽り、軍事力を増強することが「歴史の教訓」に背く行為であることは言うまでもない。侵略戦争の反省にもとづく日本の生きる道は平和主義を貫くことだ。「戦わない覚悟」こそが求められているのである。(M)

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