2023年11月03日 1795号

【長崎県対馬市、北海道寿都町 強まる核ごみ反対世論 頓挫させ原発停止へ】

 原発運転に伴い、必ず発生する高レベル放射性廃棄物(核のごみ)。原発推進に回帰した政府・電力会社は地方に受け入れを迫っているが、ここに来て地方の拒否の動きが強まってきた。

対馬市長 応募拒否

 九州と朝鮮半島を隔てる対馬海峡に浮かぶ長崎県・対馬は、韓国領の済州島(チェジュド)と並ぶ日韓国境の島だ。日本ではここにしか生息しない絶滅危惧種・ツシマヤマネコなど貴重な生物種もいる。



 島全体を占める対馬市では、過去にも一度、核ごみ応募を求める請願が議会に出され否決されている。そのような経緯もあり、2020年に核のごみ最終処分場候補地への応募を決めた北海道寿都(すっつ)町、神恵内(かもえない)村に続き、3番目の応募地になるとみられていた。今回、応募に賛成する商工会、反対する漁業者や市民の請願のうち、市議会は賛成の請願を可決したが、10対8の僅差だった。

 比田勝(ひたかつ)尚喜市長は9月27日、市議会で核ごみ最終処分地選定の第一段階となる文献調査に応募しない意向を表明、国に伝えた。議会と異なる判断だが、地方自治体では議会、市長どちらも住民の直接選挙で選ばれる「二元代表制」であり、民意を反映している限り問題はない。

 市長は、市幹部に寿都町、神恵内村の情報収集に当たらせた。その結果、文献調査に応募すれば市民に分断が生まれると判断した。

 いわゆる「風評被害」をめぐる考え方も重要な判断材料となった。対馬市は、主要産業である漁業の水揚げ高が168億円。韓国人客を中心とした観光業の経済効果は180億円もある。文献調査応募に伴って観光業、漁業が受ける影響が仮に1割としても、損害は約35億円に上る。文献調査応募によって国から20億円の交付金を得ても意味がない。観光や漁業で島の経済が自立していることも判断を後押しした。

寿都町議選は反対派善戦

 一方、文献調査応募から3年を迎えた寿都町議選(9/28告示、10/3投開票、定数9)は、容認派5、反対派4で選挙前と変わらなかった。

 文献調査への応募を「肌感覚」で決めた片岡春雄町長に反対派町議が挑んだ2021年の町長選で、片岡町長が当選した際の票差は238票だった。これに対し、今回の町議選では投票率が前回町議選の79・78%から今回は81・57%と上昇した。容認派と反対派の総得票数の差はわずか46票まで縮小。町長批判の広がりが示された。


最終処分の「適地」?

 核のごみの最終処分地をめぐっては、資源エネルギー庁が2017年に「科学的特性マップ」を公表。「地震や火山の有無などを考慮」し、処分地としての「適地」を緑、不適地を黄色や灰色で示したものだ。

 高レベル放射性廃棄物は、乾式キャスクに閉じ込めるなどの措置を講じても、数シーベルト(人間が近づけば数分で死亡する水準)の高線量を出すとされる。原子力に反対する専門家は「陸上輸送には専用高規格道路などの建設が必要であり、事実上困難。海上輸送のほうが現実的」と見る。津波の襲来を受けやすく、危険なはずの沿岸部がほとんど緑(「適地」)として示されていることからも、「特性マップ」が科学より国にとっての「輸送のしやすさ」を優先して作成されたことがわかる。

 問題だらけの「科学的特性マップ」だが、注目すべきなのは神恵内村が黄とされているのに対し、寿都町、対馬市が緑で示されていることだ。特性マップが緑で示す適地のうち、文献調査に応募している自治体が寿都町だけという状態は、対馬市の拒否で今後もしばらく続くことになる。

核ごみ政策、壁に

 寿都では、文献調査が終わり概要調査に移行する段階で住民投票を行う条例が制定されている。住民投票で反対多数となれば「適地」からの候補地がなくなる。

 青森県六ヶ所村の高レベル放射性廃棄物処理施設が今後も稼働せず、最終処分の応募地もなくなれば高レベル放射性廃棄物は処理できない。各原発からの使用済み核燃料の持ち出し先もなく、原発は頓挫する。

 あきらめず核ごみ処分地への応募を許さない闘いを各地で続ければ、原発推進政策を打破できる。

MDSホームページに戻る   週刊MDSトップに戻る
Copyright Weekly MDS