2023年11月10日 1796号

【読書室/ヘイトクライムとは何か 連鎖する民族差別犯罪/鵜塚健 後藤由耶 著 角川新書 940円(税込1034円)/差別を放置すれば虐殺に至る】

 著者らは毎日新聞記者でヘイト問題を取材してきた。

 2021年8月に起きた京都府宇治市のウトロ地区放火事件は、木造倉庫から近隣7軒の住宅を焼失させた。犯人の有本青年に対する判決は「偏見や嫌悪感に基づく独善的行為」と断じ検察求刑通りの懲役4年の実刑判決だった。しかし、判決は、その暴力的行為を罰したのみで、差別そのものを罰していない。人種差別撤廃条約の加盟国でありながら、日本にはまだヘイト行為そのものを罰する法制度が確立していない。

 有本はウトロの在日朝鮮人の歴史的経緯を全く知らなかった。得ていた知識はすべてネット情報。記者たちは、社会に蔓延するヘイトの感情がヘイトクライム(暴力)そしてジェノサイド(大量虐殺)に発展する危うさに警鐘を鳴らす。

 日本社会のヘイト感情は近年高まっている。その原因の一つが、政権から発せられる「官製ヘイト」である。朝鮮民主主義人民共和国のミサイル実験に対する「Jアラート」宣伝や朝鮮学校の授業料無償化対象からの排除。さらには、関東大震災時の朝鮮人虐殺をめぐって、慰霊祭へのメッセージを拒否した小池都知事や「記録がない」と公言した松野官房長官など、「上からのヘイト」がネット右翼などの「草の根ヘイト」を助長している。そこには「敵基地攻撃能力」保持、大軍拡路線にヘイト感情は好都合という政府―権力側の本音が見える。

 ヘイトスピーチ、ヘイトクライム事件が起こるたびに在日コリアン市民は生命の危険を感じる。官製ヘイトを許さず。ヘイト行為を罰する法整備そして在日外国人住民の参政権実現は急務となっている。 (N)
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