2023年11月17日 1797号

【沖縄 辺野古「代執行」裁判/米国も疑問視する新基地建設/環境破壊 災害招く「承認」は不当】

 沖縄・辺野古新基地埋め立て工事の設計変更不承認をめぐる「代執行」訴訟は10月30日、第1回の口頭弁論が開かれ、即日結審した。「最高裁で敗訴した沖縄県が承認しないのは違法」との筋書きをつくる政府、大手マスコミはすでに工事再開の目途にまで言及している。だが、違法行為を重ねているのは政府である。司法はこれ以上政府の法律破りを放置してはならない。今すぐ棄却すべきだ。

「不承認」は違法か

 辺野古埋め立て工事の設計変更を認めないことは違法なのか。まったくの言いがかりだ。最高裁判決(9/4)は沖縄県に「承認」を命じてはいない。国土交通大臣の「是正指示」を形式的には合法と認めただけのことだ。本来の争点である公有水面埋立法(公水法)に照らして、「承認していいのか、いけないのか」の判断を示していない。県の「不承認」を「裁量権の濫用(らんよう)」とした国交大臣の主張を審査しなかったのだ。

 福岡高等裁判所那覇支部(福岡高裁)が10月30日に開いた口頭弁論は「代執行」訴訟と言われるが、県が持つ公水法の権限を国交大臣に与える裁判ではない。国交大臣が福岡高裁に求めたのは、沖縄県知事に「承認」を命じることだ。

 この高裁の命令を県知事が期限までに実行しなければ、地方自治法は大臣の「代執行」を認める。その一方、知事が最高裁に上告することも認めている。高裁の判断が覆えれば、国交大臣が代行した「承認」は取り消され、それまでに行った工事を元に戻さなければならない。海中に投入した土砂を回収するのは無理なことだ。その可能性がある以上、政府は復旧できないことをしてはならない。

 つまり、仮に福岡高裁の執行命令が出たとしても、「不承認」を貫くことは「違法」でもなんでもない。

政府の「公益」は破綻

 「代執行」訴訟の争点は「法令違反」と「公益」に絞られる。裁判所が県知事に執行命令を出すのは「大臣の請求に理由がある」と認めた場合だ。大臣の請求は「知事の判断に法令違反がある場合」で「(不承認を放置することにより)著しく公益を害することが明らか」でなければならない。

 「公益」について、国は「普天間飛行場の固定化の回避」が公益であり、「不承認」のままでは辺野古が完成せず普天間が固定化し、公益を害すると主張する。

 「世界一危険な基地」である普天間を「5〜7年で返還」と日米両政府が合意してから30年近く放置された。日本政府は、県の埋め立て承認を得る2013年に「5年以内に運用停止」を約束した。それから10年経つ。さらに政府の計画でもあと10年以上、「普天間移転」は実現しない。欠陥のある設計で辺野古が完成しなければ、永遠に普天間は固定されてしまう。公益を害し続けているのは政府である。

 沖縄県は、直近3回の知事選挙、県民投票に示された辺野古反対の民意こそ公益であるとし、「国が押し付けるものではない」と反論している。普天間閉鎖も県民の強い要求である。それを政府は、「辺野古が唯一の解決策」としか言わず、それ以外の解決策を見出すことはしなかった。むしろ、危険な普天間を放置した責任を辺野古基地反対運動に押し付けてきたのである。この責任は沖縄県ではなく、政府が果たさなければならないものだ。


ウソで得た「承認」

 もう一つの争点「法令違反」はあるのか。国の主張は、沖縄県は公水法に違反しているというものだ。「基準を充たしているので承認する義務があり、不承認は違法」という。

 沖縄県は、「承認基準を充たしている」ことを原告である国交大臣が立証しなければならないという立場だ。裁判所は、国の立証が適正なのか判断しなければならないのだが、国交大臣の訴状は、この点についてまったく触れていない。

 そもそも沖縄県が「承認」しなかったのは、沖縄防衛局が県の質問にまともな答えを出せなかったからだ。「承認」するには、沖縄防衛局に代わり国交大臣が県に対する回答を揃える必要がある。なぜ、基礎となる地盤の調査をしなくても安全といえるのか。港湾基準書に基づかない地震力の設定で適正と判断するのか。国の天然記念物であり絶滅危惧種であるジュゴンの生態、工事の影響を調べずして環境保全は適正だと判断できるのか。

 これらの検証を省いて、大臣の請求に正当な理由があるとは決してならない。

 さらに問題なのは、沖縄防衛局がいくつもウソをついて「埋め立て承認」を得ていたことだ。共同通信は11月1日、情報公開で入手した07年の辺野古地盤調査報告書に「軟弱地盤が広範囲に存在していること」「追加の調査が必要であること」と記載されていることを明らかにした。当初の埋め立て承認申請の5年以上前に分かっていたのに、沖縄防衛局は調査することなく、架空の条件のもと申請書を作成した。それが設計変更にいたっても、相変わらず想定の数値で設計しているのだ。

 さらに、設計時に準拠した港湾基準書も沖縄防衛局は「最新のもの」と説明していたが、実際には旧版(07年版)を使った。改定された耐震設計を無視していたのだ。必要な地盤調査もせず、耐震設計も古い方法で行った申請書だった。

「完成しない」と報告書

 これらの欠陥設計は、米連邦議会でも問題視されている。沖縄県ワシントン事務所が活動報告にまとめている。20年6月、下院軍事委員会即応力小委員会が国防総省長官に対し軍事委員会に報告書の提出を指示する議決をした。そこには、建設予定地地盤の強度を示すN値の検証を含む海底の状況や耐震設計、サンゴ礁やジュゴンなど環境保護策など、最低限検討すべき5項目があがっている(表)。



 軍事委員会の採択にはならなかったが、米連邦議会が疑問視していることは間違いない。

 民間シンクタンクはより明確だ。戦略国際問題研究所(CSIS)は「これ(辺野古)が完成することなどないように思われる」と調査報告書(20年)に書いている。クインシー研究所(QI)は22年6月「恐るべき技術的課題を考えると、再検討されるべき」との報告書を出した。米戦略予算評価センター(CSBA)は、中国に近すぎて「運用上の有用性は限定的」と在沖米軍基地の維持そのものが大きな課題としている。

 今年3月、辺野古を視察した米軍幹部が「ドローンの時代には使えない不要な基地だ」(9/4東京新聞)と言ったのは、米軍の内部にも大きな疑問が生じている表れだ。辺野古建設に固執しているのは、ひとり日本政府だけということは明らかだ。これ以上、埋め立て工事を進めてはならない。

  *  *  *

 沖縄県は、即刻、辺野古埋め立て工事そのものの承認を撤回するべきだ。虚偽の申請であったことだけでも、その理由になる。

 まして何兆円もの税を費やしても完成できる確証がない。政府の地震調査委員会は南西諸島でマグニチュード8の巨大地震が起きる可能性を指摘している。耐震設計をごまかした飛行場が甚大な被害を受けるのは目に見えている。なにより、米軍が不要という基地を作って、普天間飛行場が返還される訳がない。承認撤回こそ、平和を求めるすべての人びとの利益を守ることになる。
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