2023年11月17日 1797号

【読書室/東京電力の変節 最高裁・司法エリートとの癒着と原発被災者攻撃/後藤秀典著 旬報社 1500円(税込1650円)/最高裁と国と東電を結ぶ人脈】

 福島原発事故の被災者は「お金の問題ではない。東京電力と国が責任を認め、謝罪してほしい」と言う。この願いはいまだに叶えられることなく、国と東電、財界が原発再稼働に舵を切った。利益確保と保身を第一とする彼らには反省の色がまったく見えない。それどころか、東電に至っては「過払いや不正請求と疑われる事実もある」などと避難者を攻撃する始末だ。

 原発事故避難者らが国と東電を相手取って起こしている4つの集団訴訟に関し、最高裁第2小法廷は昨年6月、国が東電に対策を取らせていたとしても想定を超える津波が来たので事故を防げなかったとして、「国に責任はない」という判決(多数意見)を出した。

 最高裁判事とはどういう人たちなのか。著者が調査を進めるうちに浮かび上がったのが、最高裁と国と東電を結ぶ巨大法律事務所による人脈である。

 第2小法廷の菅野博之裁判長は、判決から1か月後に退官し、株主代表訴訟で東電の代理人を務める弁護士が所属する巨大法律事務所の顧問に就任した。

 多数意見に賛成した草野耕一判事は元最高裁判事(千葉勝美)が顧問を務める日本最大の法律事務所の代表経営者から最高裁判事になった。この事務所の共同経営者の新川麻弁護士は東電ホールディングス鰍フ社外取締役に就任している。

 別の事務所の前田后穂弁護士は原子力規制庁に勤務(2017〜21年)。その時は、福島県浪江町住民による津島原発訴訟の国側代理人だったが、退庁後、控訴審では東電の代理人だ。

 副題は「最高裁・司法エリートとの癒着と原発被災者攻撃」。本書は、この実態を暴いている。 (U)
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