2023年11月24日 1798号

【「ガザ無期限占領」を公言/西岸地区も攻撃するネタニヤフ首相/パレスチナ全土に平和と自由を】

 パレスチナのガザ地区に連日攻撃を仕掛けるイスラエル軍。ネタニヤフ首相は「ハマス掃討」後について「ガザの安全保障全般の責任を無期限で持つ」と語った。ヨルダン川西岸地区でも攻撃を加えているイスラエルは、パレスチナ全土をアパルトヘイト国家にしようとしているのだ。

220万人に「移住」強要

 ガザ地区では毎日数百人の人びとが命を奪われている。10月7日の戦闘から1か月間、毎日だ。死者は1万人を超えた。国連グテーレス事務総長は「子どもたちの墓場になっている」と即時停戦を求めている。

 ガザ地区を統治するハマス(イスラム抵抗運動)の壊滅を掲げるイスラエルのネタニヤフ首相は、停戦に応じるつもりはない。すでに「ハマス掃討」後のガザについて「イスラエルが無期限で、安全保障全般の責任を持つ」とインタビューに答えている(11/6)。

 ガザを軍事占領する―これがネタニヤフの「戦争シナリオ」だ。それを裏付けるような文書が明らかにされている(ネットマガジン『+972』10月30日)。イスラエル諜報(ちょうほう)省が10月13日に出した政策文書「ガザ民間人に関する政策の選択肢」だ。そこには「ハマス後」のガザについて3つの選択肢が検討されている。A―パレスチナ自治政府が統治、B―別のアラブ機関が統治、C―シナイ半島への移住。A、Bではイスラエルの安全は守れない。Cが「長期的な戦略的成果」をもたらすと検討結果をまとめている。ガザ220万人すべての人びとをエジプト(シナイ半島)に追い出せと勧めているのだ。

 これは、ネタニヤフの言動と極めて似ている。第1段階でガザ北部を空爆、住民の「南部への避難」を誘導する。第2段階で「地上侵攻」を行い、全域を占領。「ハマス戦闘員の地下壕を浄化」―まさに選択肢Cが示す作戦どおりに事態は進んでいるのだ。

「対テロ戦争」と正当化

 見過ごせないのは、「ガザを地図から消し去る」というイスラエルの方針は米国やNATO(北大西洋条約機構)の軍事・諜報(ちょうほう)機関から積極的に支援されているという点だ。

 NATOは10月12日、国防大臣会議を開催し、ハマス非難とイスラエルの自衛権支持を確認した。10月27日の国連総会で「人道的休戦」決議に、フランスは賛成したが米国は反対。G7議長国の日本政府は、11月8日の外相会議で共同声明をまとめ「結束」をアピールした。その声明もハマスのテロ攻撃非難、イスラエルの自衛権支持が基調となっている。

 「対テロ防衛戦争」を軍拡と海外侵略の言い訳に使ってきた日本や欧米政府は、イスラエルと同類ということだ。日欧米政府が言う「南部への住民避難のための休戦」は住民保護のためではない。ハマス掃討作戦のためであり、パレスチナ人追放の一環なのだ。

 受け入れ先にされているエジプトはどうか。2013年の軍事クーデターで権力を掌握して以来、現シーシ政権はハマスの母体であるムスリム同胞団を反政府組織として攻撃している。イスラエルとは密かに2国間協議を行っているという(11/6グローバルリサーチ)。

 イスラエル諜報(ちょうほう)省の政策文書は、世界的キャンペーンを行うことにも触れている。大手広告代理店を動員し「ハマスの指導者のせいで、アッラーはあなたたちがこの土地を失うよう仕向けた」と刷り込めという。イスラエルが占領した土地に戻る望みはない、諦めよというのだ。

 この10月13日付けの政策文書がハマスの攻撃後1週間もかけずに作成されたとは思えない。ガザ地区を新たなイスラエルにしようとするネタニヤフの作戦は用意周到に準備されていたに違いない。


全域アパルトヘイト国家

 ガザだけではない。イスラエルはヨルダン川西岸地区でも「ハマス掃討」作戦を行っている。10月7日以降、147人を殺害。2150人以上を拘束している(11/8共同)。西岸地区の大半はイスラエルの軍事占領地。パレスチナ自治政府の行政権が及ぶ範囲は2割にも満たない。集落を結ぶ道路にイスラエル軍が検問所を設置している。ガザ同様、封鎖されているに等しい。この機にさらに占領地を拡大するつもりだ。

 イスラエルは占領地のユダヤ人入植者にはイスラエルの国内法を適用するが、パレスチナ人には市民権を認めず、軍律を適用する。拘束は軍の判断でできる。軍事裁判所では12歳から起訴できることになっているが、5歳の子どもが拘束・拷問されるなど、虐待の事例には事欠かない。

 非ユダヤ人に対する差別的扱いは占領地だけのことではない。イスラエルが18年に制定した「ユダヤ人国家法」はユダヤ人にのみ民族自決権を認める。「人間の尊厳と自由基本法」は「ユダヤ人及び民主的国家として確立するため」の基本的人権を保障しているが、「イスラエル国の諸価値」に反する人権は認めない。民主主義も基本的人権もユダヤ人のためだけにあるということだ。

 ではユダヤ人とは誰か。「ユダヤ教徒か母親がユダヤ人で、他の宗教の成員ではないもの」と「帰還法」に定めがある。非ユダヤ教徒であるパレスチナ人は、イスラエル国内においても基本的人権は保障されない。イスラエルは人種差別を公的に定めるアパルトヘイト(人種差別・隔離)国家である。このイスラエルをヨルダン川西岸からガザ地区まで広げようというのだ。

 世界中で、イスラエルの軍事侵攻に抗議し、「ヨルダン川から地中海まで」パレスチナに自由を求める運動が起こっている。アラブ諸国では再び自国の民主化運動へと拡大する期待が高まっている。第2のアラブ革命だ。好戦勢力が世界中で人殺しを肯定している今だからこそ、「戦闘をやめろ」「平和と民主主義を」の声を一つにしなければならない。戦争屋たちを追放するときだ。

  *  *  *

 「海に囲まれた沖縄はガザと同じ」「今日のガザは明日の沖縄」―「ノーモア沖縄戦 命(ぬち)どぅ宝の会」が11月6日、ガザ停戦を呼びかける声明発表の場でそう語った。

 完全封鎖されたガザで爆撃を受ける人びとの姿は、逃げ場のない沖縄にミサイルが撃ち込まれる場面を想起させる。銃剣とブルドーザーで畑や住宅が米軍に奪われた沖縄の経験は、イスラエル軍の戦車に追われたパレスチナ難民の状況に重なる。人権が保障されないパレスチナ人の立場は、日米地位協定で守られた米兵の犯罪被害にあう沖縄の人びとにはよくわかる。

 「住民を犠牲にする戦争を、戦争準備をやめろ」。世界を一つにする人びとの叫びだ。



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