2023年12月22日 1802号

【ガザ無差別攻撃を正当化する「対テロ戦争」宣伝/イスラエル市民 ネタニヤフ退陣求める】

犠牲者90%が市民

 イスラエル軍がパレスチナのガザ地区を攻撃して2か月以上になる。その間、戦闘を休止したのはわずか7日間だった。イスラエルはこの期間を使って、破壊しつくした北部に軍事拠点を作った(12/7読売新聞オンライン)。「永続占領」への準備と見てよい。

 12月1日に再開した攻撃は以前にもまして激しくなった。病院、学校、避難所などおかまいなしの無差別攻撃だ。今度は南部を壊滅するつもりだ。ガザ全地区を更地にし、入植地に作り替えようというのだろう。

 既にガザの人口の1%が殺されている。100人に1人だ。イスラエルは「6000人のハマスを殺害した」と言っている。1人のハマス戦闘員を殺すのに市民2人を一緒に殺したことになる。だが実際は90%は市民だったとスイスのNPOユーロメッド人権モニターが伝えている(12/8)。戦闘員の9倍の市民が殺されている。イスラエルのヘルツォグ大統領は「ガザに罪のない市民はいない」(10/14)と言った。市民も罰せられて当然、巻き添えになったとは思っていないのだ。

「自衛」の名で虐殺

 イスラエルはガザ攻撃を「テロリストから自国を守る」ためだという。イスラム国(IS)を相手にした対テロ戦争を念頭に、正当化しようということだ。

 ガザ住民すべての追放を提言したイスラエル諜報省の文書には「ムスリム同胞団をダーイッシュ(ISの前身)のような非合法集団に変貌させるための広範な取り組みが必要」と書かれている。大手広告代理店を使い「ガザへは戻れないことを市民に受け入れさせるキャンペーン」を行い、「事実であろうがなかろうが」ハマスのせいにせよと指示している。

 ハマスの攻撃直後に、CNNがイスラエルの発表を受け「子どもの斬首死体があった」と報道した(10/11)。ハマスの惨忍さを印象付ける狙いだ。後に事実確認できず取り消したが、ISと重ねるイメージ操作は成功した。

 「野外音楽祭への襲撃」もハマスの蛮行の一つとされている。イスラエルは「260人の死体」はハマス襲撃の結果と発表していたが、イスラエル軍の攻撃ヘリが銃撃した結果でもあった(イスラエル紙ハアレツ11/18)。ハマスが民間人を殺害、人質にした行為は正当化できないが、イスラエル軍はその人質をハマスの戦闘員もろとも無人機で爆殺している(ネットニュースTheCradle.co11/30)。

 ハマスの攻撃によるイスラエルの犠牲者1200人にはイスラエル軍による犠牲者も含まれている。これが、イスラエルが「自衛権」の名の下に行った行為だ。

辞任要求76%

 ネタニヤフ戦時内閣をイスラエル市民は支持しているのか。そうではない。イスラエルの「チャンネル13」の調査では「辞任すべき」が76%に達している(11/4)。首相官邸には抗議のデモ隊が押し寄せている。「人質解放」をもとめるデモ、集会が数千人規模で行われている。

 ネタニヤフ政権は戦闘中止を求める声を必死で抑え込んでいる。フェイスブックに書込みをしただけで、何百人もの学生が逮捕、退学、追放されている。パレスチナ支援のデモは許可されない。11月18日、イスラエル警察が初めて許可したハダッシュ(平和と平等のための民主戦線)の停戦を求める集会は場所や人数を制限された。

 イスラエル軍への信頼も落ちている。人質になっていたイスラエル市民は「イスラエル政府が私たちを殺し、ハマスのせいにするのではないかと心配した」と語り、人質の存在を気にもしないガザ攻撃に怒りを表明した(イスラエルのYネット12/6)。イスラエル軍は空爆で人質も殺している。

 戦闘休止の間に解放された人質は100人を超えたが、まだ約120人が残っている。自国民の命さえ守ろうとしないネタニヤフ政権に対する批判の声は日増しに高まっている。

   *  *  *

 「直ちに停戦せよ」。この最低限のことすら、国連安全保障理事会(12/8)は決議できなかった。国連憲章99条に基づく事務総長の要請で開催された安保理だが、米国が拒否権を行使した。英国は棄権した。相変わらず米英政府はイスラエル擁護を続けている。

 バイデン大統領は政治資金集めのイベントで、「ハマスのテロリストは女性や少女にできる限りの苦痛を与え殺している」と述べ、性的暴行や体の切断があったことを強調している(12/5ロイター)。敵をいかに邪悪に見せるかが、戦争指導者の役割だ。大手広告代理店のアドバイスなのかもしれない。いかなる戦争犯罪も事実が検証され処罰されなければならない。だからこそ、一方的に誇張したプロパガンダを220万ガザ市民殲滅(せんめつ)の理由にさせてはならない。



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