2024年01月19日 1805号

【沖縄「代執行」訴訟 最高裁へ/地震で崩壊する埋め立て工事を認めるな/法を守らぬ政府に敗訴判決を】

 国土交通大臣は昨年12月28日、沖縄・辺野古新基地建設で大浦湾の埋め立て工事に承認を与えた。本来、承認権限があるのは県知事である。大臣がそれを奪い取ったのだ。沖縄県は、「代執行」を認めた福岡高裁那覇支部の判決は誤りだとして、12月27日最高裁に上告した。沖縄県民の不屈の闘いが知事を支えた。今度は全国からの闘いが最高裁を包囲するときだ。この埋め立て工事は認めてはならない危険な工事なのだと最高裁に言わせよう。

悪しき先例

 2000年の改正地方自治法施行後初めて、「代執行」という強権が発動された。この「代執行」がいかに重大な問題であるのか、沖縄県玉城デニー知事が厳しく批判している。

 まず、地方自治の破壊だ。「憲法で定められた地方自治の本旨をないがしろにするものであり、誠に遺憾」。「国策」をたてに県民から選ばれた自治体の長である知事の権限を奪うことは民意の否定だ。国土交通行政の長に過ぎない大臣が自治体の長に代わって権限を振るうなど、理屈に合わない。

 2点めは、国と地方自治体の「対等な関係」を「上下・主従関係」に逆行させてしまったことだ。法定受託事務にかかる国の裁決(知事の不承認処分を取り消したこと)について、司法に訴える資格を認められず、「是正の指示」など国の関与が一方的に重ねられ、淡々と「代執行」に至ってしまった。

 玉城知事は「国と都道府県の法的な解釈が異なった場合に、国の判断だけが正当なものとして認められるという、地方自治を否定する先例が生じてしまった」と指摘している。

 政府は、防衛省だけでなく、国交省、法務省の官僚を非公式に集めた「辺野古会議」で沖縄県の反対姿勢を強行突破する秘策を練っていた。「私人なりすまし」による行政不服審査法の悪用や地方自治法の「代執行」利用と悪知恵を絞った。この「辺野古」対応が地方分権推進の積み重ねや法の秩序を潰しているのだ。

争点すり替え

 玉城知事が言う「法的な解釈の違い」とは、公有水面埋立法(公水法)の解釈についてだ。「違い」は極めて単純なことだ。沖縄防衛局の埋め立て工事は、公水法に定められた要件を充たしていないとする県と充たしているという政府の「違い」だ。

 「日本の安全保障」にかかる「政策選択」の是非を持ち出すまでもない。「安全である」ことの技術的根拠を求めた沖縄県と、県の求めは不承認のための口実で「職権濫用」だとして応じない国のどちらが正しいのかだ。

 昨年9月4日の最高裁判決は「国交大臣の是正指示は、地方自治法上、間違いではないから、それに従え」ということだけだった。公水法に照らして国交大臣の判断が正しいかどうかを最高裁は示していない。埋め立て工事の安全性について何も言っていないのだ。

 争点は公水法の判断だったはずだ。だが、政府や司法が「司法判断に従わない」と沖縄県を非難するのは、国の採決や関与に従わないと言っているのだ。問題はこのすり替えにある。今度こそ最高裁は判断を示さなければならない。

 国がいつも正しく、自治体は言われるがままに従えという「悪しき先例」にさせてはならない。

地震力の過小評価

 公水法は、公共の海を埋め事業用地にする行為に厳しい制限を設けている。その一つ、「環境保全及び災害防止に付き十分配慮されて」(第4条1項2号)いなければ、免許を与えてはならない。沖縄防衛局の申請書は民間事業者なら決して免許を得られない代物だ。

 最大の問題点として浮上しているのは、耐震設計がまったくいい加減であることだ。

 護岸は地震時にも倒壊しないよう設計する必要がある。沖縄防衛局は、最新の技術基準(2018年版)に基づいて設計したと言いながら、地震によって護岸に加わる力(地震力)の算出は旧版(07年版)によっていた。新版の約6割の力しか働かないことにした。最大加速度を約40ガル、震度4程度の地震しか対象としなかったのだ。

 だが、1月1日に起きた能登半島地震はM(マグニチュード)7・6、約2800ガルが記録された。沖縄近海では、これほどの大地震は起きないのかと言えば、決してそうではない。政府の地震調査研究推進本部が公表した南西諸島海溝周辺の「地震活動の長期評価(第二版)」(22年3月25日)によれば、M8程度の巨大地震発生の可能がある。M7〜7・5程度なら100年間に数回起こっている。ここ30年のうちに発生する確率は60%にもなる。

 この規模の地震が辺野古近海で発生すれば、設計値(40ガル)の70倍近い地震力が護岸に働く可能性は高い。間違いなく崩壊する。

全国からの闘いが鍵

 耐震設計の他にも、技術者なら決して許されないことをしている。軟弱地盤が最も厚く堆積するB27地点で、護岸を支持する地盤の強固さを測定しないまま設計を行っていることだ。沖縄県が不承認処分をした大きな理由の一つだ。

 一見して「危ない」設計であるにもかかわらず、国交省から防衛省に出向する技術職員を先頭にごまかしをはかっているのだ。

 この犯罪的行為を後押ししているのが、防衛省が設置した技術検討会だ。ここに顔をそろえる大学教授らは県の指摘に対する対応策を指南する役を果たしていた。軟弱地盤対策の設計変更を請け負っている大手コンサルタント「日本工営」の社内検討会議に出席し、指導していた者もいる(23年11月12日東京新聞)。



 最高裁は、政府の無茶な論理を検証することもなく、「県は国の言うとおりにせよ」と再び判決するのか。ことは、地方自治のあり方から法の規範性にまで至る。決して避けて通ることはできない。

 全国からの闘いを強め、最高裁にあるべき公正な判断をさせ、一刻も早く産官学が結託して進める危険な工事を止めさせなければならない。

   *  *  *

 「代執行」を前にした12月24日、沖縄現地では沖縄平和市民連絡会が琉球大学徳田博人教授(法学)を講師に学習会を開いた。その中で三宅俊司弁護士が、代執行訴訟も含め県の敗訴が続いていることに触れ、「沖縄県も県民も一度も負けたことはない」と発言。司法が本来の争点である公水法の適用について判断を避けているからだと指摘した。その通りだ。負けてはいないし、本来、負けるはずがない裁判だ。そのためにも知事を支える沖縄の闘いに連帯し、勝利しよう。



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