2024年01月19日 1805号

【子ども脱被ばく裁判・控訴審/12月18日に“親子裁判”判決/不当判決に「子どもは宝だ」の声轟く】

 12月18日、仙台高裁前に「不当判決」「またもや司法は子どもを護(まも)らず」の旗が広げられた。「子どもの命を守らなくて、何を守っているのだ」と大きな抗議の声が上がった。「子ども脱被ばく裁判」控訴審“親子裁判”の判決に、原告や支援者ら約100人が全国から結集した。

子どもの命を守ろう

 この裁判は、福島原発事故に対し国や福島県が当然行うべき住民の放射線防護対策をとらなかったことで子どもたちが「無用な被ばく」をし、そのために将来の健康不安が高まり精神的苦痛を被ったことへの慰謝料を請求したもの。仙台高裁の石栗正子裁判長が言い渡した判決は、原告の請求を全く認めない「控訴棄却」の不当判決だった。

 福島地裁での第1審判決は、「行政の裁量の範囲内」なので違法ではないとしていたが、控訴審判決は、より内容に踏み込んだ上で、行政の措置はやはり「裁量の範囲内で不合理とは言えない」と結論づけた。

 その結論を導くために、不合理な事実認定や強引な判断が行われている。井戸謙一弁護団長をはじめ弁護団は、報告集会で「ボロボロの判決」「論理が破綻している判決」と断じた。

でたらめな判決内容

 判決内容の主なポイントは▽国や福島県がとるべき対策をとらなかったために受けた被ばくに対する賠償―どの程度の被ばくをしたのか、主張立証していないから原告らの主張は失当▽スピーディ(緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム)情報の隠蔽―放出源情報が得られず正確な予測ができなかったから、公表しなかったことは裁量の範囲内▽子どもに対する安定ヨウ素剤の投与指標を「甲状腺等価線量10_シーベルト」とすべきところを「100_シーベルト」とした点―裁量の範囲内▽年20_シーベルトを基準とした学校の再開―国がICRP(国際放射線防護委員会)の2007年勧告に従ったことは合理的―などだ。

裁判所による人権侵害

 弁護団が指摘する裁判上の問題点は大きく2つある。

 (1)原告が請求しているのは「原発事故によって生じた損害」以外の損害(包摂されない損害)であるにもかかわらず、判決は何を「具体的に主張しろ」としているのかがわからない。

 (2)一審でも控訴審でも、裁判所はその論点を一度も指摘しなかったにもかかわらず、判決で「主張は不備」だと宣言した。公平な審理とは言い難い不意打ちで、裁判官として違法な行為であり、到底容認できない。

闘いは最高裁へ

 原告団長の今野寿美雄さんは「国や県の主張をなぞっただけのあきれ果てる判決だ。受け入れるわけにはいかず、上告して最後まで闘いたい」と決意を述べる。

 原告の佐藤美香さんは「裁判所で『子どもは宝だ』と叫んだ。体調は悪いが、私はこの裁判に勝つことしか考えていません」と闘いを継続する思いを語った。

 *   *   * 

 1月4日、子ども脱被ばく裁判の原告団は、最高裁宛の「上告状兼上告受理申立書」を提出。56人の控訴人(原告)が上告した。

 1月1日の能登半島地震で、志賀(しか)原発では外部電源の一部を喪失、変圧器からの油漏れや核燃料プールの水漏れなどが発生。天災などでいつ原発事故が起こるか判らない日本で、「子ども脱被ばく裁判」の意義はますます大きくなっている。

子ども脱被ばく裁判

 2014年8月、福島地裁提訴から始まった2つの裁判で、2021年3月、請求棄却の不当判決により、仙台高裁での控訴審に移る。

 「子どもたちに被ばくの心配のない環境で教育を受ける権利が保障されていることの確認」(子ども人権裁判)は、2023年2月、仙台高裁が請求棄却の不当判決。こちらは、義務教育を受ける子どもたちが原告で、昨年3月すべての子どもが卒業してしまったため、最高裁に上告はできない。

 今回の判決は、「原発事故後、子どもたちに被ばくを避ける措置を怠り、無用な被ばくをさせた責任」(親子裁判)を問うたもの。





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