2024年01月26日 1806号

【羽田JAL・海保機衝突事故の原因/過密化・管制官削減による人災だ】

 1月2日、帰省Uターンラッシュのピークを迎えた羽田空港C滑走路で、離陸を待っていた海上保安庁機と着陸直後のJAL(日本航空)516便が衝突した。双方の機体が炎上し、海上保安庁機の乗務員6人のうち5人が死亡。JAL機の乗客・乗員379人は緊急脱出し14人が軽いけがをしたが死者は出なかった。

事故の背景

 1978年の成田空港開港以降、基本的には羽田は国内線、成田が国際線を受け持つという役割分担が長く続いてきた。

 それが大きく変わったのは2010年代に入ってからで、東京五輪の招致が決まってからは「再国際化」が本格化した。選手団や役員などの大会関係者を入国させるのに成田では遠すぎるとして、6時から22時55分までの「昼間時間帯」を中心に、最大で従来の1・7倍もの増便となった。

 国土交通省がホームページで公表している資料「管制取扱機数と定員の推移」でも増便の実態が裏付けられている。コロナ禍直前、19年までのデータで見ると、日本の空を飛ぶ飛行機の数は「右肩上がり」で増え続け、04年の年間463万1千機から、19年には695万3千機になった。15年間で1・5倍もの急激な増便だ。

2倍近くに増加

 一方、航空管制官(国家公務員)の人数は、同じ期間に定員ベースで4961人から4246人になっている。これだけ航空機数が増えているのに、管制官の数を増やすどころか、逆に15%も減らしたのだ。

 当然、管制官1人当たりが受け持つ航空機数も爆発的に増える。年間933機/人(04年)から年間1637機/人(19年)。1・8倍の増加だ。

 この数字は定員ベースだ。国家公務員の定員割れが常態化していることを考えると、実員ベースでは管制官数はもっと少なく、1人が受け持つ航空機数はもっと多いということになる。

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日本の航空機の数は右肩上がりで増えているのに航空管制官数は右肩下がり。安全軽視の人員削減が事故を生んだ(国交省資料から)

 この間の報道では、管制官が監視するレーダーに滑走路誤進入を知らせる警報の発信機能があること、海保機の誤侵入が事故の40秒前から起きていたこと等が指摘されている。ジェット旅客機の場合、着陸速度でも時速200`b以上で飛行しており、40秒間なら2`b以上も進む。これだけ長時間、管制官がレーダーの警報に気づかなかったとすれば、人員削減による航空管制現場の崩壊も事故の背景に浮かび上がってくる。

 事故前日、1月1日には能登半島地震が起きている。一刻も早く被災地に向かうため海上保安庁に焦りが生まれ、滑走路誤進入が起きた。そこに定員削減で疲弊した航空管制官のミスが重なる。官公庁の態勢が手薄となる年末年始の巨大災害というタイミングも災いしたが、通常ならあり得ないはずの人為的ミスがドミノのように連鎖した背景に公務員人員削減があったことは間違いない。

 国交省職員で構成する「国土交通労働組合」はこの間、「国土交通行政を担う組織・体制の拡充と職員の確保を求める署名」に取り組んできた。署名運動の「解説」には「相次ぐ定員削減により、災害の対応が困難になったり、公共交通機関の事故トラブルの恐れが高まったりして国民の安全や生活が危ぶまれる状況になっています」との悲痛な訴えが掲載されている。

現場からの「警告」

 JALの経営破たんを受け、2010年の年末に労働者165人が解雇された。そのうち32名が解雇撤回を求めて結成したJAL被解雇者労働組合(JHU)は1月11日に見解を発表。全員が脱出に成功し、死者を出さなかった背景に、516便(エアバスA350型機)で全ドアに客室乗務員が配置されていたことを指摘。「機種によってはドア数に満たない客室乗務員編成数で運航され、職場が改善を求めているにもかかわらず、経営側が応えず、国土交通省も事態を放置している」と会社や国交省の安全軽視を批判している。

 政府、航空会社による利益優先、安全軽視の新自由主義的航空政策が大事故を生んだ。国交省や航空会社の労働者の闘いと結び、生命優先の航空行政に転換できるかが問われている。
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