2024年01月26日 1806号

【どくしょ室/情報公開が社会を変える ―─調査報道記者の公文書道/日野行介著 ちくま新書 880円(税込968円)/開示請求は民主主義の実践】

 「情報公開」が市民の運動、政治参加の重要なツールとなることを教えてくれる本だ。著者は福島原発事故に関わる調査報道で知られる。福島県の県民健康管理調査では、発見された甲状腺がん患者が「原発事故によるものでない」とする口裏合わせを行う秘密会が存在していた。著者はその存在を情報公開で暴いた。

 また、茨城県14市町村が避難対象となる東海第二原発の避難計画策定で、取手市が収容可能人数を過大報告していた。茨城県は関係自治体に再調査を実施し、同様の例が複数見られたが、その結果を隠ぺいしていた。著者は県と関係自治体に情報公開を重ねることで隠ぺいの事実を明らかにした。

 公開請求できる公文書には、会議の議事録にとどまらず関係者間で共有化されたメールやメモなど一切の文書が該当する。しかし、政府は情報公開請求に対して、「非公開」「不存在」などと情報公開を拒むことがある。その場合、市民に知られたくない不都合な政策意図が必ず存在すると著者は指摘する。政府が隠そうとしている不都合な本音を暴くには、政策決定過程の本音のやりとりが記録されている公文書を明らかにすることこそ重要なのだ。

 情報公開請求で役所が「不開示」処分したことを容認してはならないと著者は主張する。行政不服審査法に基づく審査請求で意思を表明することは民主主義の基礎である「知る権利」を実現するために重要だ。

 あまたの「不開示」に対し「審査請求」を行うことで役所の「不開示」処分そのものの不当性を追及してきた著者。その実践を公文書道≠ニ名づける。誰もが取り組める、また行うべき道といえる。  (N)
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