2024年02月02日 1807号

【イスラエルをジェノサイドの罪に問う/国際司法裁判所 審理始まる/南ア支持し すべての国が当事国に】

 パレスチナ・ガザ地区におけるイスラエルの軍事行動はジェノサイド(集団殺害)である。国際司法裁判所(ICJ)は1月11、12日、南アフリカ政府が提訴したイスラエルのジェノサイド条約違反の審理を始めた。イスラエルは「事実無根」と反発。「国際法を順守している」とまで言っている。イスラエルに国際法を守らせる力は国際的な市民の連帯した闘いだ。南アの提訴を支持し、イスラエルを擁護する各国政府を追及しよう。

暫定措置を早急に

 イスラエル軍のパレスチナ・ガザ地区に対するかつてない大規模無差別攻撃は4か月目に入る。イスラエル軍は住民に南部への避難を指示し、その南部への攻撃を激化させている。まるで虐殺の「効率」をあげるために人口密度を高めているかのようだ。

 南アフリカ政府は昨年12月29日、国際司法裁判所(ICJ)にイスラエルの行為は「ジェノサイド条約」違反であると訴えた。

 ジェノサイド条約とは、1948年に国連総会で採択された国際条約で、51年に発効した。「集団殺害罪の防止及び処罰に関する条約」。「集団殺害」とは「国民的、人種的、民族的又は宗教的集団を全部又は一部を破壊する意図をもって行われる行為」で、▽集団構成員を殺害すること▽集団構成員に重大な肉体的・精神的な危害を加えること▽肉体破壊を意図した生活条件を故意に強いること▽出生を妨害する意図的措置▽児童集団の強制移住の5つの行為のどれかにあたれば、「集団殺害」になる(条約第2条)。

 南アの訴状は「他の戦争犯罪や人道に対する罪とは区別」して、ジェノサイドの罪に問うことを強調している。ジェノサイドはその場の行為だけを意味しないからだ。「75年にわたるアパルトヘイト、56年にわたるパレスチナ領土の軍事的占領、16年にわたるガザ封鎖」というこれまでの歴史的経過そのものが、「ガザのパレスチナ人を破壊するという特別な意図をもって行われた大量虐殺である」ことを一層明瞭に示す。

 ガザの状況は緊急を要する。訴状は、判決とともに暫定措置を速やかに命じることも求めている。イスラエルに対しすべての軍事攻撃を直ちに停止し、パレスチナ人を保護すること、人道支援の制限や避難指示の発令などを撤回することなどジェノサイドにつながる行為の停止がすぐに必要だ。

今度こそ懲罰を

 今回の訴状で注目すべきもう一つの点がある。「紛争当事国」でもない南アがなぜ、国家間の紛争を扱う国際司法裁判所に提訴するのかだ。

 南アは「ジェノサイド条約締約国としての義務であり、ガザでのジェノサイドやその危険を防ぐために行動する責任がある」という。イスラエルは「自衛権の行使」であり、国際法に抵触することはないとの立場を崩さない。南アは条約の解釈をめぐる紛争があることから、紛争当事国として原告となりうると提訴の正当性を主張しているのだ。

 かつて、南アは白人支配の下でアパルトヘイト(人種隔離・差別政策)による統治をおこない、「人道に対する罪」と非難された時期があった。このアパルトヘイトを撤廃し、94年大統領に選出されたネルソン・マンデラは「パレスチナ人に自由がなければ、私たちの自由も完全ではない」と語った。

 南アが現在のアパルトヘイト国家であるイスラエルを訴える意味は大きい。だが、そんな背景がなくても、イスラエルの集団虐殺行為を止めるのはジェノサイド条約締約国の義務であり責任であるとの主張は大いに評価されるべきだ。すべての国が当事国なのだ。

 イスラエルは建国以来、国連決議を無視し、国際法にも従ってこなかった。こうした横暴な態度を示しても国連は懲罰を加えることはできなかった。英米をはじめとする親イスラエル国が妨害をしてきたからだ。今回のICJの判決をイスラエルへの懲罰につなぐには、南アの提訴を支持する大きなうねりが必要になる。

全世界から支援を

 すでに、ブラジル、ベネズエラ、ニカラグア、コロンビア、ボリビア、ヨルダン、イラン、イスラム協力機構の57か国を含む60か国以上の政府が、南アの訴えを支持する声を上げている。90か国、1千を超える市民運動・労働組合・政党その他の団体が、南ア支持を求め各国政府に公開書簡を発した(1/12プログレッシブ・インターナショナル)。審理開始日には、オランダ・ハーグにあるICJを多くの市民団体が取り囲んで、激励した。

 世界各地で、パレスチナ連帯の闘いは大きく広がっている。英国の反戦団体、ストップ戦争連合などが呼びかけた1月13日国際行動デ―は、ワシントンでは40万人、ロンドンでも50万人が集会、デモに参加。世界中がイスラエルに対する抗議の声をあげた。日本でも東京をはじめ各地で行動が取り組まれた。

 だが米国アントニー・ブリンケン国務長官は南アの提訴について「ジェノサイドの罪は(恒久平和の取組にとって)無意味だ」と発言。まさにジェノサイドの共謀者と言える。日本もまた、事実上イスラエル擁護の姿勢を維持している。林芳正官房長官は「ジェノサイド条約条にかかる(南ア提訴の)評価は、コメントを控える」と逃げた。上川陽子外相も同様、「注視する」と言うだけだ。

 22年現在、152か国が批准しているジェノサイド条約を日本は批准していない。条約の締約国ではないとしても、ジェノサイドに加担することなどあってはならない。

 イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は1月18日の記者会見で「ガザをイスラエルの管理下に置く」とあらためて宣言した。パレスチナ政府を認めず、ヨルダン川西岸も含めイスラエルが支配するという。パレスチナ人の殲滅(★せんめつ)を公言してはばからない。目の前で行われているジェノサイドを一刻も早く止めるために、イスラエル擁護の政府を追及しよう。

   *  *  *

 イスラエルは、自国を批判する者を「反ユダヤ主義」ときめつけ、口を封じる。キリスト教社会に根強く残るユダヤ人差別を逆利用しようと言う魂胆(こんたん)だ。

 だが、パレスチナの領土を奪いイスラエル建国を進めたシオニストは差別を受けたユダヤ人とは無関係だ。むしろ、シオニストはナチ・ドイツによる組織的大虐殺「ホロコースト」の犠牲者を軽蔑さえしていた。ホロコーストの生存者を「死に損ない」「せっけん」と呼んだという(高橋真樹『ぼくの村は壁で囲まれた』現代書館)。世界シオニスト機構はナチスと協定を結び、欧州からユダヤ人富裕層を積極的にパレスチナに受け入れてもいた。

 ホロコーストの悲劇をくり返さないように制定されたのがジェノサイド条約だ。今イスラエルは、ジェノサイドの罪を問われている。





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