2024年02月02日 1807号

【住宅追い出し裁判控訴審不当判決/災害救助法で裁くことは的外れ/国際人権法適用以外にない】

 福島原発事故で都内に避難した区域外避難者2人が福島県に仮設住宅からの退去と損害賠償金支払いで訴えられた住宅追い出し裁判は、1月15日に仙台高裁(瀬戸口壯夫(たけお)裁判長)が一審福島地裁判決を全面支持する不当判決を言い渡した。

 東京都江東区の国家公務員宿舎に住む2人は、福島県知事によって一方的に住宅提供が打ち切られた2017年4月以降も、経済的・精神的事由から家賃相場が高い民間賃貸住宅等への引っ越しはできなかった。当事無職であったことから公的住宅(都営住宅)を希望したがそれも世帯要件でかなわず、行き場を失って住み続けてきた。

 この裁判で最も問題にされたのは、原発事故という人災で避難を余儀された者への生活の基本である住宅の確保をいかに補償するか、であった。法的・制度的には、自然災害しか想定していない災害救助法適用でくくるのは全く不十分という訴えであった。原発事故の場合、住宅が全壊半壊状態でなくとも放射能汚染で住めない、原発立地からできるだけ遠くに避難する、インフラ整備がされても放射線管理区域に戻るのには長期間必要、などだ。

 控訴理由で、避難者側は以下のように述べている。

 「全国の都道府県をまたぐほどの損害・避難が発生した本件原発事故に対して各自治体レベルで適切な対応をとるのは極めて困難であり、広域に及ぶ状況を把握している国をさしおいて適切な決定主体はなく、自治体の長を決定主体とする災害救助法施行令3条2項や特定非常災害特別措置法8条をそのまま適用することは不相応で、法の欠缺(けんけつ/適用すべき法規がない事態)が生じていた」

 現在の法・制度では長期間避難生活を続けることは困難で、安定した住宅が得られない者が出る実態を突き付けているのが2人の存在。まさに2人は法の欠缺の犠牲者であった。そういう現行法と実態の乖離(かいり)がある時こそ、上位法に依拠して救済しなければならない。控訴理由は続ける。

 「憲法の生存権の規定及び国際人権法の国内避難民の人権保障に関する規定に適合するように補充することが適切である」と。

実態を見ない裁判所

 ところが、福島地裁は国際人権法の専門家証人、実態を明らかにする本人尋問を一切行わず、仙台高裁に至っては一発結審で審理すら行わなかった。

 判決は、災害救助法に基づいて被災県(福島県知事)が適用の時期を判断するのは違法ではなく、打ち切りの時期を決めた政策判断は裁量権の範囲とする。社会権規約11条1項の「適切な住居」という抽象的概念から直ちに東京都内の国家公務員宿舎の一部居室について無償の居住権が導かれるとも言えないと、的外れな飛躍した論理で国際法適用の成否の判断から逃げた。

 犠牲となった2人の実態についても、的外れな見解を示した。福島県が応急仮設住宅に代わる支援措置を用意したのにそれを受けていないことをもって、2人がわがままである、個人責任だと印象付けた。県の支援措置は、民間に引越しした場合1年目は月3万円、2年目は2万円の家賃援助というもの。2人の場合、その後は6万(単身)〜10万円(家族)の家賃が永久に続く。困難なことは明らかだった。そのため、東京都が支援措置として提供した都営住宅優先入居を希望したが、世帯要件にかかり入居できなかった。1人はその後応募資格を得たものの15回の落選を強いられた。

 さらに、判決では、支援措置が終了し民間家賃支払いが困難になって生存権にかかわるような事情が生じたら、生活保護制度など活用したらいいだろう、と開き直った。人びとを支援し救済して生活水準を引き上げるべき行政や司法が、逆に、生活保護水準まで追い込むことを平気で述べたのである。

解決は国の責任だ

 2022年末に国内避難民に関する国連特別報告者として訪日調査を実施したセシリア・ヒメネス=ダマリーさんは報告書で「国内避難民の生命または健康が危険にさらされる場所に国内避難民が非自主的に帰還することを防ぐ措置のないままに、国内避難民を公営住宅(公的住宅)から立ち退かせることは、国内避難民の権利の侵害であり、場合によっては、強制立ち退きに相当する可能性があると考える」と指摘した。

 日本政府は、原発避難者が「国内避難民」であると認め、復興庁は全国自治体に国内避難民に関する指導原則の遵守を通知した。国家公務員宿舎の家主である財務省は「居住避難者を提訴するつもりは今後もない」(23年11月17日)と明言している。ならば、福島県が避難者を(国に代わって)「代位権行使」で訴えたこの提訴を取り下げさせ、解決に乗り出す責任がある。

 司法には最低でも、原発事故に見合った災害救助法改正なり「原発事故住宅補償法」の新設など、意見する役割があるだろう。



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