2024年02月02日 1807号

【三上智恵監督『戦雲』 まもなく完成/沖縄から進む戦争準備/皆が戦(いくさ)を止めるブレーキに】

 沖縄・琉球弧における戦争準備とそれに抗う人びとの姿を描いたドキュメンタリー映画『戦雲(いくさふむ)』が3月中旬より各地で公開される。また、三上智恵監督の撮影日誌『戦雲/要塞化する沖縄、島々の記録』(集英社新書)が出版された。戦争への動きを止めるために、多くの人に広げたい。

新たな沖縄戦の危機

 タイトルの戦雲(いくさふむ)は、石垣島在住の山里節子さんが即興で歌った反戦とぅばらーま(八重山地方の民謡)の一節からとっている。2016年、自衛隊配備予定地の撮影に案内役として同行した山里さんは、空を覆い出した雨雲を戦争の予兆に見立て、「戦雲がまた湧き出てくるよ。憎い戦争 絶対にいやだ」と歌った。

 それから7年。沖縄・琉球弧では自衛隊のミサイル基地配備を始めとする軍事要塞化が急ピッチで進んだ。元総理が「台湾有事は日本有事」などと公言し、万一の事態に備えるのは「国民の安全を守る」ために必要なことだというムードが醸成されてきた。

 しかし「盾」の役割を押しつけられる島々には、そこで暮らす人びとがいる。そんな場所に「敵」を狙うミサイルを持ち込めばどうなるか。真っ先に攻撃され、多くの犠牲者が出る。それも政府や軍にとっては織り込み済みの話なのだ。

 ウクライナ戦争の解説で有名になった高橋杉雄(防衛研究所・防衛政策研究室長)が「安保3文書」の改定を受け、「統合海洋縦深防衛戦略」なる計画を推奨していた。「米中激突」となった場合に、日本がとるべき軍事作戦である。

 いわく「戦力差を考えると米軍は中国軍に勝てるが、世界中に展開する米軍が駆けつけるには半年間から1年の時間を要する。そこで日本が時間を稼ぐ。一定の攻撃を覚悟しながら敵を縦に誘い込んで長期戦に持ち込む」というわけだ。

 これは沖縄戦の発想にほかならない。「継戦能力の向上」と称して日本政府が進める弾薬備蓄(そのための施設建設)は「第二の沖縄戦」を見据えてのものなのだ。住民の安全対策として語られるのは「避難シェルター」。あろうことか、「沖縄には避難に適した自然壕がある」と述べた国会議員もいた。歴史を知らないにもほどがある。

絶望の映像が力に

 三上智恵監督は2015年以来、沖縄島のみならず与那国島、宮古島、石垣島、奄美大島など琉球弧の島じまをカメラを片手に歩き、この地で進む大軍拡の実態と人びとの闘いを記録し続けてきた。3月公開予定の『戦雲』は彼女の最新ドキュメンタリー作品だ。

 映画の公開に先だって出版された新書『戦雲』は、「マガジン9」に連載された撮影日誌を抜粋・加筆したもの。「湧き出す戦雲に抵抗する人びとがどんな時を刻んできたのか」が詰まっている。そして「葛藤の日々の記録でもある」と三上監督は言う。

 「国防を理由に島の生活が捻じ曲げられ、悲鳴を上げる人たちを撮影し話を聞く行為は、ひたすらつらく、自分の無力さを責める時間でもあった。高江も、辺野古の基地建設も止められない。自衛隊ミサイル基地の建設も止められない。ならば私のやってきた報道もドキュメンタリーも、何の役にも立たなかったということなのか?」

 約5年の間、危機感と敗北に満ちた映像が溜まっていく一方だった。「映される人にとってもつらく、カメラを回す方もつらく、見せられる方もつらい映画って何だろう?」。その答えが見つからず、作品にまとめきれなかったという。

 転機は2023年2月のある上映会だった。撮りためた映像の一部を1時間程上映すると、会場は衝撃で沈んだ。多くの参加者がマイクを握り締め、「まさか沖縄がこんなことになっているとは…」と涙を流した。沖縄の今を捉えた映像の破壊力に監督自身が気づいた瞬間だった。

 そして、新作映画の番外編(スピンオフ)と銘打った映像上映会が全国1300か所で行われた。沖縄の映像を観ることをきっかけにして、それぞれが戦争を止めるブレーキになるんだと意識して仲間を増やしていってくれたら、と三上監督は言う。「絶望の映像が希望を生む瞬間に立ち会えるかもしれない」

 なお、新書版のカバー絵は画家の山内若菜さんが担当している。与那国馬にまたがり戦雲に立ち向かう少女の後姿は「仲間を呼んでいる」と受け止めた。こちらも注目したい。 (M)

■上映日程(一部) 

▽3月16日〜東京・ポレポレ東中野、大阪・第七藝術劇場▽3月22日〜京都・京都シネマ、長野・長野ロキシー▽3月23日〜広島・シネマ尾道、沖縄・桜坂劇場

・映画サポーターを募集中。他の上映案内を含め、詳しくは公式サイト(ikusahumu.jp)まで。



MDSホームページに戻る   週刊MDSトップに戻る
Copyright Weekly MDS