2024年02月23日 1810号

【能登半島地震と大阪万博/「復興万博」という維新の妄言/被災地支援のためにも中止を】

 東京オリンピックの開催に固執した安倍晋三元首相は「人類がコロナに打ち勝った証し」という迷言を吐いた。今、大阪・関西万博に必死な「維新」の面々は、能登半島地震を念頭に「復興万博」をアピールしている。人命よりも利権が大事ということだ。

中止論に焦る維新

 能登半島地震が発生して以来、X(旧ツイッター)では《万博中止》が連日トレンド入り。「大阪・関西万博の費用を被災地の支援にまわせ」という書き込みが相次いでいる。

 こうした世論の高まりに、万博推進の旗を振る日本維新の会は神経をとがらせている。馬場伸幸代表は「ひとつの財布で国家の財政運営がされているわけではない」と語り、万博開催は被災地復興の障害にはならないと反論した(1/5)。

 また、「万博に来ていただいた皆さんが北陸方面にもお出かけいただいて、経済的な部分で長い目で北陸を応援していくことにつながる。北陸の皆さん方が万博に夢や希望を持っていただけるのではないかと思っている」と発言(1/30)。よくわからない理屈で開催の意義を強調した。

 大阪万博については、高市早苗経済安保相が岸田文雄首相に「延期」を進言したが、馬場はこれに激怒。「閣内不一致」を理由に閣僚辞任を高市に迫った。蛇足ながら、こうしたヤクザまがいの恫喝が馬場のキャラにはよく似合う。

 高市が万博延期を口にしたのは「ポスト岸田」を意識してのパフォーマンスだろう(事実、すぐ引っ込めた)。しかし、万博の会場建設と被災地復旧工事が重なったことでゼネコンが困り果てているという言い分は事実である。

 建築エコノミストの森山高至さんは「大手ゼネコンは職人不足で必死に人をかき集めている。資材も万博優先で集められ、一般工事の電線が既に足りなくなっている」と指摘。「このまま建設業界の実態を把握しないまま、万博開催にこだわれば、民間市場を荒らした結果、被災地がほったらかしということになりかねない」と警鐘を鳴らす(1/17東京新聞)。

石川県知事の万博推し

 万博工事と被災地の復旧のどちらを優先すべきか。まともな政治家なら考えるまでもないことだ。しかし、この国にはまともな政治家が少なすぎる。このことをあらためて見せつけたのが、馳浩・石川県知事の「万博激推し」発言だった。

 いわく「大阪万博、ぜひやっていただきたいと思っております。万博というのは世界に我が国の技術力をオープンにする、大事な場でもあります。我が国の経済成長にも必要です」(2/2BSフジの『プライムニュース』での発言)。

 生活再建の目途すら立たない被災者を大勢抱える県のトップが言う台詞とは思えない。「こんなときによく言えるな」「腹が立って涙が出てくるよ」といった批判がSNSに殺到したのは当然だろう。

 森喜朗元首相にスカウトされ、プロレスラーから政界に転身した馳は、自民党所属の衆議院議員として活動してきた。今も自民党員である。それなのに日本維新の会の顧問も務めているのだ。保守分裂選挙となった石川県知事選(2022年3月)で馳は維新の推薦を受けた。薄氷の勝利を得ることができたのは維新のおかげと言われている。

 馳にしてみれば、万博応援発言は「助けてもらった維新への恩返し」かもしれないが、住民置き去りもはなはだしい。ま、こういう輩だから、恥も外聞もなく維新に尻尾を振ることができたのだろうが…。

◎怪しい防災計画

 被災地の復旧よりも万博開催が大事――こんな発想の連中が準備を進める大阪万博の安全性は疑わしい。実際、昨年12月にまとめられた防災基本計画は嘘で固めたシロモノだった。
 たとえば、万博会場である夢洲の被害予測だ。大部分は大地震が発生しても「液状化が起こらない想定」になっているのだ。だが、大阪府が南海トラフ巨大地震を念頭に行った調査(2017年)では「液状化が激しい」と評価されており、明らかに矛盾する。
 ちなみに今回の防災基本計画でも、夢洲に隣接する咲洲や舞洲は「液状化が起こる可能性が高い」とされている。夢洲は人工島だ。運よく地震の被害が少なくても、周辺地域の液状化が激しければ数少ない避難ルートが寸断され、万博来場者の孤立は避けられない。
 1995年の阪神・淡路大震災では、神戸市のポートアイランドで大規模な液状化現象が発生。鉄道や道路が使用できなくなり、島は一時孤立した。その記憶を、関西が地盤の維新は都合よく忘れたようだ。

想定以上の地盤沈下

 地盤沈下の問題もある。夢洲は廃棄物や海底のしゅんせつ土で埋め立てられた土地だ。案の定、埋立地ならではの軟弱地盤問題が発生。しかも、想定をはるかに超える地盤沈下の恐れがあることが、会場工事を担っているゼネコンの指摘で判明した(文藝春秋3月号/森功レポート)。

 原因は造成を急ぐために2022年春に行った盛土である。これが裏目に出た。23年4月から24年末までの1年半の工事の期間中、場所によっては70cm近くも地盤沈下する危険性があるというのだ。

 夢洲を万博会場に選んだせいで、施設建設や地盤改良の工費はふくらんでいくばかり。「だったらやめて、資材も労働力も被災地に回すべきだ」と考えるのが普通である。共同通信の全国世論調査(2/3〜2/4実施)をみても、「大阪万博は延期または中止」という意見(44・6%)が「計画どおり実施すべき」(27・1%)を上回った。

 そもそも大阪万博は、維新の看板政策であるカジノありきのイベントだ。政府には遅滞なき中止の決断が求められている。 (M)



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