2024年03月08日 1812号

【「子ども・子育て支援金」の名の岸田増税 まやかしだらけの保険料500円上乗せ策】

 岸田政権は2月16日、「子ども・子育て支援法等改正案」を閣議決定し、その財源の「子ども・子育て支援金」を1人月平均500円弱とすることを示した。

 この支援金は、医療(健康)保険料に上乗せされる。本来、社会保険料はその目的のために徴収されるものであり、少子化対策に健康保険料を充てるなどありえないことだ。政府がこんな手法をとるのには、「増税ではない」と言い逃れることで反発を避け、「取りやすい方法で取ろう」という思惑がある。


保険料も実質は税だ

 2月10〜12日実施のNHK世論調査は、支援金制度について結果を明らかにした。「妥当」20%、「妥当ではない」31%、「制度自体に反対」33%、「わからない」16%である。医療・介護の歳出改革で1人月150円の軽減を図ると政府は説明するものの、妥当2割という世論調査結果は、支援金制度への支持がないことを示している。



 もし「所得税を月500円引き上げる」とした場合、人びとはどう受け止めるだろうか。増税イメージが強く出て、反対の声がさらに高まるだろう。多くの人びとにとって社会保険料と税金への受けとめには違いがある。岸田政権はこの違いに目をつけ、「取りやすい方法」として医療保険料上乗せをもくろんだ。

 社会保険は保険料負担をもとにさまざまなリスクへの給付を行う制度だ。保険料負担なしでも給付できる場合(健康保険の被扶養者等)もあり、一部は国庫負担であるため、社会保険は所得再配分の機能も有する。

 所得再配分とは、所得の多寡(たか 多い少ない)に応じて負担を求め、これを財源に生活困窮者など低所得者へ支給することだ。一般に所得に累進的な課税をするのが税であり、収入に定率の保険料を課すのが社会保険である。いずれも義務とされ、主に賃金を原資にしている。

 社会保険料には上限があり、一部の制度では低所得者にも保険料支払いが求められるため、社会保険料が格差を拡大させている。税も同様に、とりわけ大企業や富裕層を優遇する現行制度は格差を拡大させている。社会保険料は税と同じ機能を持つことが分かる。

 社会保険料と税の間に違いは多くない。国民健康保険制度では、自治体(市町村)によって保険料ではなく「国民健康保険税」としているところがある。国民健康保険法と地方税法で、市町村が保険料か税かを選択できるからだ。給付内容には影響せず大きな違いはない。つまり、この「支援金」は増税なのである。

問題だらけの支援金制度

 支援金は「子ども子育てを社会全体で支援するための費用」とされる。ところが、その費用を医療保険料に上乗せすると別の問題が生じかねない。国民健康保険料より高くなるケースもある後期高齢者医療保険では上乗せが抑制され、医療保険制度間で差が生じる可能性があり、世代間の分断に利用される材料ともなる。

 500円程度と侮ってはいけない。小さく生んで大きく育てる≠ェ政府の常套(じょうとう)手段になっているため、さらに増えることも考えるべきだ。支援金が高くなればなるほど、負担だけを強いられる独身や子どもなしの世帯に子どもを持つ意欲を失わせ、少子化対策の一環であるはずの支援金が少子化を進めるものになってしまう。

 また、社会保険料は中小零細企業をはじめとする企業を苦しめている側面がある。厚生年金保険料と健康保険料は企業が半分を負担し、従業員の保険料と合わせて企業が納める義務を持つ。減免措置がないため、経営が厳しい企業には負担が重くなる。コロナ禍で経営悪化した企業が支援金による社会保険料増加のために、倒産にまで追い込まれかねない。すでに、社会保険料倒産が増えているのが現状なのだ。

 少子化対策を口実に実質増税を行う一方、軍事費にはいっさい手を付けず5年間43兆円という額をさらに増額しようと狙う。こうした軍事費増をやめるだけで、少子化対策の財源を大きく生み出せるのだ。
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